第77話 八雷神7

 地面に転がる刀を見てワカコの心にゆとりができた。


(これで一人を殺せル! 一対一なら負けはなイ!)


 流れる一連の動作で結花に鐓を突き入れようとした。


 しかし、薙刀が動かない。


 直輝が薙刀を掴んで抑え込んでいた。


「今だ!」


 直輝が叫び、驚愕したワカコに結花が背中から袈裟斬り、続けて胴を薙いだ。


 傷口から黒赤い煙が噴き吹き出る。


 薙刀が煙となって消え、ワカコが膝から落ちて倒れた。


 身体を保てなくなったワカコは禍津日まがつひを残して黒赤い煙となった。


 結花が祓絶(はらえだ)ちを行い、ワカコの禍津日まがつひを祓った。


 少し怒った結花が聞いた。


「わざと刀を落としてなのね?」


「それしか薙刀を掴む方法が思いつかなかった」


「私が躊躇していたら、危なかったよ」


「結花ならやってくれると信じていた」


「信じてくれるのは嬉しいけど、こういうのはやめて」


 直輝は抗議の言葉に頭をかいて落とした祓い刀を拾った。



◆   ◇   ◆



 靖次と対峙するライカは自分から動いた。


 右手で鬼の爪を振り、斬られた左腕も打撃として使い、力強く攻め立てる。


 靖次は身を躱し、祓い刀で受け流して猛攻を凌ぐ。


 反撃しないことにライカが苛立ちを覚えた。


「さっきみたく斬りに来いヨ。爺さン!」


 鬼の爪を大振りにして切り裂きにいく。


 それを受け流した靖次はライカの懐に踏み込んだ。


 脇構えから腹を真横に斬り払う。


 しかし、ライカは手首を切り落とされた左腕をフックのように折りたたんで叩き込んだ。


 強烈なフックに靖次は樹に吹っ飛ばされた。


 幹に叩きつけられて肋骨を痛め、ライカは腹の中程まで切られていた。


 傷口から黒赤い煙を流してライカが言った。


「相打ちカ。強いな爺さン。名を聞いてやル」


「……おれは布津神陰流ふつしんかげりゅうの武宮靖次」


「オレは火雷ほのいかづちのライカ!」


「やはり八雷神やくさいかづちのかみであったか。鬼であるお前さんらの好きにはさせん!」


「ぬかセ!!」


 ライカが間合いを詰めて前蹴りを繰り出す。


 寸前でその蹴りを躱して靖次は踏み込み、もう一度腹部へ切り込む。


 鬼の爪で受け流して、ライカは態勢を戻す。


 また嵐のような猛攻をライカが仕掛ける。


 しかし、今度は靖次が受けきって斬り返す。


 ライカの腕や足、体に浅い切り傷が増える。


 靖次は強い攻撃を受け止める度に肋骨が痛む。


 その痛みを無視して受け止めては斬り返す。


 互いに間合いを取って攻撃が止む。


 ライカが笑って言う。


「ああ、楽しイ! だが、そろそろ終わりにしてやル」


「おれもそう思っていたところだ」


「……面白イ!!」


 右腕を振り上げて、早くて重い鬼の爪を振り下ろした。


 靖次は刀で正面から受け止めた。


 ライカは強い力で押し込むが、靖次は全く動かない。


――ブチブチ。


 靖次は軸足のアキレス腱に異変を感じるが、今は無視した。


 ライカが渾身の力を出すタイミングで、靖次はスッと身を引く。


 大きく態勢を崩したライカに小手打ちで右手首を切り落とす。


 切っ先は止まらず、脇構えから強く踏み込むと逆袈裟でライカを斬り上げた。


「おおっ! 祓絶はらえだちっ!!」


 逆袈裟はライカの禍津日まがつひごと斬った。


 ライカは笑って言う。


「負けるとはナ。……楽しかっタ」


 黒紅色くろべにいろの煙と一緒に禍津日まがつひが光の断片となって消えた。

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