第76話 八雷神6


「ああぁああぁあああああっっっ!」


 御鏡が感電して声を上げるが、二重の加護もあって耐えきった。


 御鏡は五枚目の火行呪符を指に挟み、印を結び詠唱する。


「これで終わりだ! 炎となって焼き尽くせ! 急急如律令!」


 下半身に絡む蔓を分解、呪符を通して火行の炎へと変換する。


 炎は足元から上に燃え、一気に火柱となってナルヤを飲み込む。


 御鏡が力強く言った。


「最大の相生を繰り返した炎だ!」


「こんな馬鹿ナ! ぐああああアァァァァァッ!!」


 ナルヤの断末魔が響く。


 威力が最大限に増した火柱に飲み込まれ、焼けて黒赤い煙となった。


 煙は周囲の陰の気に混ざり、鳥居の中へ吸い込まれていく。


 炎が消えた後には禍津日まがつひだけが空中に残る。


 御鏡は柏手を打ち、手を合わせて祝詞のりとを唱えた。


高天原たかあまのはらまします 掛けまくも畏き天照大御神あまてらすおおみかみ

 産土うぶすな大神おおかみたちの大前を拝み奉りて 恐み恐みも白さく。

 大御神の恩頼みたまのふゆに依りて 諸々の禍事まがごと 罪穢れを祓へ給い清め給へ」


 御鏡の鏡が光って淡い光に包まれた禍津日まがつひは消滅した。



◆   ◇   ◆



 牽制するワカコが中段の構えに変える。


 直輝と結花も中段に構えて間合いをとる。


 直輝が小声で結花に言った。


「常に挟むように立ちまわろう」


「うん。分かった」


 二人はワカコを挟むように左右へ離れる。


 直輝とタイミングを合わせて結花が斬りかかる。


 ワカコは薙刀の刀身で受け止め、体を軸にして半回転する。


 合わせて薙刀を回して後ろの柄で結花の刀を叩き落すように振り下ろした。


 強い衝撃に手を放しそうになったが、結花は受け流して下がる。


 ワカコはさらに薙刀を回転させて、斬りこんで来た直輝の鳩尾みぞおちいしづきを突き入れた。


「うぐっ!」


「刀身ばかり気にしていると、こうなりまス」


 呻きを上げた直輝は後ろへよろめく。


 ワカコは薙刀を縦に構えて直輝を見据えて集中する。


 ハッとして直輝は構え直す。


 ワカコが指を差して叫んだ。


側撃雷そくげきらい!」


 直輝は反射的に唱えた。


「桑原、桑原」


 雷は目の前の鬼から放たれず、直輝の後ろの樹に雷が落ちた。


 そこから直樹に向かって雷が放たれた。


「うっ!!」


 刀を地面にさして倒れないように態勢を維持する。


 一瞬、全身が痺れたが大した痛みも感じずにいた。


(加護のおかげか……)


 合点がいった直輝だが、ワカコは不服そうな顔して言った。


「ワタシの雷はみんなより、弱いけどそれだけの威力に落ちるなんテ。……薙刀で切り刻むしかないってことネ」


 ワカコは勝手に納得して中段に構える。


 直輝と結花は間合いを取りながら数度踏み込み斬り合うが、避けられ受け流される。


 また薙刀によるすねを狙った攻撃を警戒して、深く踏み込めずに間合いをワカコに取れていた。


 一つ、方法を思いついた直輝は決断した。


(……よし、狙ってみるか)


 結花に視線を送り、二人で攻撃を仕掛ける。


 直輝は上段に構えて振り下ろすが、薙刀の刀身で受け止めた。


 ワカコが体を軸に半回転して薙刀を回す。


 何度か見せた動作は今までと同じく、後ろの柄で刀を叩き落すように振り下ろした。


――ガシャッ!


 直輝は強い衝撃に受けて祓い刀を地面に落とした。

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