第75話 八雷神5

 御鏡が水行呪符を取り出し、ナルヤの頭上へ飛ばして詠唱する。


「水弾となって敵を撃て! 急急如律令!」


 神社に敷かれている砂利を分解、呪符が水に変換する。


 ナルヤは頭上から降り注ぐ水弾を避けてイゾルデの傍から離れた。


 傍に寄った御鏡の手を借りてイゾルデが起き上がる。


 二重の加護で守られたイゾルデが言う。


「私は大丈夫」


「一旦、後ろに下がるんだ」


「……分かったわ」


 短剣が無いイゾルデは御鏡の言葉に従ってナルヤから距離を取る。


 胸の短剣を抜きとったナルヤは後ろに投げ捨てた。


 ナルヤが御鏡に声を掛けた。


「確か、御鏡だったナ」


「……滋岳か。鬼だと知っていたら、あの時に討伐していた」


 声としゃべり方にピンと来た御鏡が答えた。


 ナルヤが失笑して言った。


「それは、厳しいのでハ? 今だって困難だと思うがネ」


 ナルヤと御鏡は五枚の呪符を取り出して構える。


 金行呪符を使い、ナルヤは刀印を組んで詠唱した。


 僅かに遅れて土行呪符を御鏡が使い、印を組んで詠唱する。


「白虎金神招来! つぶての雨となレ。急急如律令!」


「壁となって守れ! 急急如律令!」


 砂利が散弾のようになって御鏡へ放たれる。


 しかし地面の土が壁となって礫を阻む。


 土の壁の陰を利用して御鏡はけんを踏んだ。


 御鏡は土の壁に金行呪符を貼り、印を結び詠唱する。


 ナルヤが火行呪符を選び、遅れて印を結び詠唱した。


「剣となって敵を貫け! 急急如律令!」


「朱雀火神招来! 炎の壁となって我を守レ。急急如律令!」


 御鏡はで金行の比和ひわを作りだし、土の壁が変換された剣を強化した。


 剣がナルヤへと真っ直ぐに飛ぶ。


 ナルヤの目の前に炎の壁が現れ、金行の相剋で剣を溶かす。


 だが、剣は溶けずに炎の壁を貫いてナルヤの腹や肩へ刺さった。


 黒赤い煙が傷口から溢れ流れる。


 ナルヤは理解して叫んだ。


相剋そうこくできなかっただト!?  ……比和ひわを作ったのカッ!」


「そうだ。まだ、これだけで終わりじゃない!」


 御鏡が水行呪符を選んで唱える。


「水流となって渦を巻け! 急急如律令!」


 ナルヤに刺さる剣や砂利が分解、水に変換されて足元から水流が渦を巻き始める。


 相剋になる土行呪符を使ってナルヤは印を結び詠唱した。


「天空地神招来! 水の流れを抑え込メ! 急急如律令!」


 土が水流に混ざり渦を飲み込む。


 そのまま地面に泥水が広がり、御鏡の攻撃は防がれた。


「今度は防いだゾ! 次はお返しダ!」


 勢いよくナルヤが水行呪符を使い、印を結び詠唱する。


「玄武水神招来! 水の刃となって敵を裂ケ! 急急如律令!」


 ナルヤの周りに幾つもの水玉が高速回転して円盤型の刃となる。


 手裏剣のように飛んで御鏡を切り裂く。


 御鏡は両腕を前にクロスして頭をガードする。


 傷は浅いが手や腕から血が流れる。


 濡れたのを確認したナルヤが木行呪符を使い、印を結び詠唱する。


 同じく御鏡も木行呪符を選んで印を結び詠唱する。


「青龍木神招来! 敵を絡み捉えよ! 急急如律令!」


「蔦となって絡みとれ! 急急如律令!」


 御鏡とナルヤの足元から蔦が生えて下半身を包み込み、互いに動けないようにした。


 五枚の呪符を使い切ったナルヤは両手で合わせて集中する。


 バチバチと手のひらの間を雷が放ち、その手を濡れた地面に押し当てる。


「オレの勝ちダ! 迅雷!」


 濡れた地面を伝って、御鏡に電流が流れる。

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