第74話 八雷神4

 ライカが直輝に襲い掛かった。


「小賢しい術など、オレの前では無意味ダ!」


 頭の上から鬼の爪を振り下ろす。


 直輝は刀で受けるが、腰が落ちて体が沈む。


(攻撃が重い! 受けきれない……)


 途中で祓い刀を斜めにして、体と一緒に受け流す。


 勢い余った鬼の爪は参道の石畳に傷を残した。


 赤鬼から間合いを取り、構える。


 身を翻してライカは結花へ腕を振り上げた。


 直輝が叫んだ。


「体格差がありすぎる! 結花、避けろ!」


 振り下ろされた鬼の腕と結花の間に靖次が割って入る。


 靖次は力強い鬼の爪を完全に受け止めた。


 ライカが驚く。


「なんだト!? オレの爪を受けきっタ!」


 ライカに隙ができた。


 靖次は見逃さず、そのまま鬼の左手首を切り落とした。


 続けて袈裟斬りをするも、ライカは後ろに下がって躱した。


 ライカは笑みを浮かべて言った。


「面白イ。この爺は強いゾ! オレの獲物に相応しイ!」


 落ちた手首から黒紅色くろべにいろの煙が重く垂れ落ちる。


 それでもライカは構えて靖次と対峙した。


 構え直して靖次は指示する。


「この赤鬼はおれが抑える! そっちの二匹を頼む!」


 その言葉に従い、直輝たちは左右に分かれて二匹の鬼と間合いをとる。


 ナルヤが眼鏡を掛け直して言う。


「……人数が多いカ。ならバ」


 四枚の呪符を指に挟み、印を結び唱えた。


罰示式神ばっししきがみ夜烏よがらす。罰示式神、送り狼。この人間らを襲え!」


 複数の式神を召喚して数を補う。


 夜烏よがらすが夜空から襲い、足元から送り狼が噛みついてくる。


 直輝は祓い刀を振るうが、式神は素早くかわす。


 振り下ろした時を狙って、ワカコが薙刀で突き払ってくる。


 振り下ろして刀を辛うじて構えて直輝は受け止める。


 莉緒に向かって直樹は言った。


「攻撃は何とかするから、弓矢で式神を頼む!」


「分かりました!」


 頼まれた莉緒は柏手を打ち、手を合わせて祝詞のりとを捧げた。


「掛けまくも畏き高御産巣日神かみむすひのかみ 拝み奉りて恐み恐みも白さく。

 我が目の前にある禍事まがごとを討ち祓う天之麻迦古弓あめのはじゆみ 天羽々矢あめのはばやを与え給へ」


 手に光の弓矢が現れて物質に変化、形成する。


 まずは夜烏よがらすを狙って破魔矢が放たれる。


 見事に射抜いて核が封じられた呪符は灰となった。


 続けて高野が帝釈天たいしゃくてん印を結び、真言を唱えた。


「ナウマク サマンダ ボダナン インダラヤ ソワカ!」


 印を結んだ手から雷撃が走り、送り狼を打つ。


 ギャンと悲鳴を上げてよろめいたところを狙って結花が深く斬りつけた。


 核の呪符まで斬られ、送り狼は黒赤い煙となって消えた。


 短剣を抜いたイゾルデがナルヤと打ち合う。


 ナルヤは鬼の爪で受け流すが、接近戦が得意でないことが動きから見てとれる。


 イゾルデが短剣で切り裂き、胴や腕に傷を付ける。


 追い詰められたナルヤが声を漏らす。


「クッ! これなラ……」


 両手で合わせて集中する。


 そのまま両腕を開くと、バチバチと手のひらの間を雷が幾筋もの光を放つ。


 イゾルデはナルヤの胸に短剣を突き刺す。


 お構いなしでナルヤはイゾルデの両肩を掴む。


迅雷じんらい!」


――ドォーン、バチッ、バチッ、バチッ、バチッ、バチッ!!


 激しい雷鳴と共にイゾルデの体を電流が駆け巡る。


 ナルヤの胸から短剣を刺したままイゾルデが倒れた。


「「イゾルデさん!」」


 直輝と結花が駆け寄ろうとするが、ワカコが立ちはだかる。


「アナタたちの相手はワタシだヨ」


 薙刀を振るって二人を牽制する。

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