第73話 八雷神3

 直輝たちは御鏡のミニバンと高野の高級車で山野線沿線の神社を巡回していた。


 助手席に座っている直輝に運転している御鏡が言った。


「稲葉、見鬼で視てみろ。瘴気が地面に薄く漂っている」


 言われて、直輝は見鬼で確認する。


 ドア越しでも、はっきりと分かるぐらい瘴気が視えた。


 それだけでなく、カラスに似た妖魔や猫に似た妖魔、路地の陰に小鬼も時折視えた。


 御鏡に感想を述べた。


「東京がここまで淀んでいるなんて……」


「普通、こんなに淀んでいることはない。やはり、鬼と関連しているのかも――」


 会話の途中で御鏡の携帯に電話が入った。


 車を路肩に止めて電話に出る。


「はい、御鏡です。……玉兎会ぎょくとかいが現れた! ……分かりました。向かいます」


 電話を切ると乗車している直輝、結花、莉緒へ伝える。


「靖国神社に玉兎会ぎょくとかいが現れた。これから向かうが、後ろにも伝える」


 三人とも無言で気が引き締まる。


 後ろに止めている高野の車へ駆け寄り、今の話を伝えた。


 明治神宮へ向かうのを止めて渋谷を通り靖国神社へと向かう。


 途中で強い地震が起こり、交通の混乱もあったが神社の駐車場へ着いた。


 駐車場には神社庁の車両もある。


 車から降りた直輝が視えたのは赤い光だった。


 赤い光は魔法陣が作る霊力の壁でビルの谷間から見える。


 霊圧が今いる靖国神社に集まるのをみんなが感じる。


 焦る御鏡が靖次に声を掛けた。


「東京に儀式用の魔法陣が形成されたようです」


「うむ。事態は悪化しているが、まずは準備を怠るな」


 靖次の喝が入る一言に御鏡は冷静になった。


 直輝たちは二台の車から荷物を取り出し、駐車場で準備を始めた。


 直輝と結花は帯刀ホルダーを身に着ける。


 祓い刀を腰の帯刀ホルダーに固定した。


 御鏡は呪符ケースを腰に装着し、首から掛けている鏡を表にする。


 腰に付けた八卦盤のキーホルダーを一度握りしめて確認した。


 右手の勾玉を確認した莉緒は、御鏡から渡された清め塩の小瓶を上着のポケットに入れた。


 イゾルデは祝福された短剣を確認して祈りを捧げた。


 風呂敷で包んだ土砂加地どしゃかじの荷物を高野は背負った。


 道着姿の靖次は刀袋から取り出して祓い刀を腰に差す。


 全員、雷撃で機械類が壊れる可能性が高いので、携帯を含めて車内に置いておく。


 各々の準備が終わり、靖次が声を掛けた。


「では、参るか」


 靖次を先頭に交差点を渡り、二番目の鳥居を抜けて靖国神社へと進む。


 その時、雲一つない空に激しい雷鳴が響く。


 警戒しながら右手に桜の標準木ある場所に出る。


 この場所に神宮庁、神宮本庁の退魔師たちが倒れていた。


 直輝は駆け寄って声を掛ける。


「大丈夫ですか? しっかりしてください!」


 すでに絶命しており、遺体からは焦げた匂いが漂う。


 別の遺体は鬼の爪でざっくりと頭を切り裂かれている。


「こっちも駄目だ……」


 御鏡が頭を振った。


 声に反応して鬼が近寄る。


「フン、また弱そうなのがぞろぞろト」


「学生ぐらいの男女、老人、坊主、シスターとバラエティーに富んでいル」


「本当に退魔師? そうは見えない子たちがいるけド」


 巨体の赤鬼、スーツ姿の青鬼、薙刀を持った女子高生のような緑鬼が行く手を塞ぐ。


 ザッと半身に構えて直輝は抜刀する。


 全員が身構え結花や靖次も抜刀し、莉緒とイゾルデが術の詠唱に入る。


 莉緒は柏手を打ち、手を合わせて祝詞のりとを捧げる。


「掛けまくも畏き天照大御神あまてらすおおみかみ 天羽槌雄神あめのはづちのおのかみを拝み奉りて恐み恐みも白さく。

 大神に捧げられし 絹、荒妙あらたえより和妙にぎたえを織りて 神御衣かんみそを我らに与え給へ」


 神通力で織物の神を自分に降ろすと、全員に護りの加護を与える。


 イゾルデが十字架を握り、祈祷書の断片を暗唱して祈った。


「忠実なる同行者にして浄め授ける御者よ。

 天主の御摂理により定めれば、御身は導き手、保護者、我が守り手となり給う。

我が傍らより決して離れぬ」


 細やかな光が全身を包み、障壁の加護が全員へ加わる。

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