第78話 八雷神8

 靖次は軸足を引きずりながら肋骨などの痛みを確認する。


(アキレス腱が切れたか。肋骨もヒビぐらい入っているだろう)


 目の前で送り狼が高野の雷撃を受けて怯む。


 靖次は抜き打ちで送り狼を切り捨ててとどめを刺す。


 残りの夜烏よがらすも莉緒の弓矢で射抜かれて消えた。


 辺りが静かになり、短剣や刀を納刀して中門鳥居の前にみんなが集まる。


 中門鳥居を見鬼で視た直輝が言った。


「鳥居が赤く、淡く光っている?」


「呪符で呪術的な転移術が発動しているようだ」


「分かるんですか?」


「陰の気が鳥居に吸い込まれているが、社へ向かっていない。鳥居でぷっつりと切れている。おそらく、転移先で儀式を行っていると思う」


 御鏡が鳥居に貼りついている呪符と地面に流れる陰の気を視ながら答えた。


 続けて御鏡が言った。


「儀式がどの程度か分からない以上、ここにいるメンバーで転移先へ行くしかない。残りの鬼を倒して儀式を止める」


「……おれは行けぬ」


 みんなの視線が靖次に集まる。


「肋骨を痛めて、アキレス腱が切れている。これでは十分な戦いができない」


「靖次先生……」


「お爺ちゃん……」


 直輝と結花が心配そうにする。


 靖次は笑って言う。


「肋骨の怪我はたいしたことない。アキレス腱は最後に踏み込みが良すぎてア切っただけだ」


「では、車まで戻りますか?」


 御鏡の気遣いに靖次は首を振った。


「おれはここに残って後から来る者に事情を説明する。悔しいが、向こう側のことはお前さんたちに任せる」


 その言葉にみんなが頷いた。


「皆さん、行きましょう」


 直輝が先陣を切って中門鳥居を潜った。



◆   ◇   ◆



 全員が鳥居を潜り、山中の大きく開けた場所に出る。


 空には太陽がないのに明るい瑠璃色の空。


 そして続く坂道があった。


 遠いところは緑が生い茂っているが、ここの周囲は瘴気で枯れ木が目立つ。


 この瘴気が漂う開けた場所の中央ぐらいに五匹の鬼がいた。


 二重円の魔法陣の五箇所に立ち、中央に香炉がある。


 その魔法陣の中央、地面から二メートル上の空中に黒紅色の球体があった。


 その球体は煙の塊で生きているように脈動する。


 儀式の詠唱で黒赤い球体は瘴気、陰の気を吸収して少し大きくなる。


 カシラたちは詠唱を中断して直輝たちに向かい合う。


「……来たか、退魔師どモ」


「お前たちの仲間を倒して、追い詰めたぞ。鬼の陰陽師!」


 直輝は父親のことを思い出しながら言い放った。


 言葉の声を聴いてカシラは記憶を辿って思い出した。


「あの時の若い退魔師だナ。ワタシの雷を受けて生きているハ。……いや、倒れてもワタシの前に立つことに驚ク。たいした胆力と決意ダ」


「僕の決意は父さんの意思を継いで、お前を祓ってみせることだ!」


「それは出来ないことダ。退魔師どもを殺セ!」


 カシラは術の継続を行い、四匹の鬼が直輝たちへ向かう。


 直輝は祓い刀を抜いて構え、他の全員も戦闘態勢に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る