第71話 八雷神1

 黄泉平坂でカシラが笑みを浮かべた。


 地面に香炉を置き、儀式の準備をしながら言った。


「……時は満ちタ。今夜はうしの方角に九曜星の羅喉星らごうせいが地に降り、そして奇門遁甲の死門が最も強く出ていル」


「今日、計画を実行するのネ?」


「うム。まずは東京へ向かうゾ」


 カシラの言葉に従い、鬼たちは人間の姿になって五行遁行で東京駅の周辺へ転移した。


 各自、NR山野線を使って環状線の路線が八等分になるように駅で降りる。


 予め決めていた路地裏で召呼鳥獣しょうこちょうじゅうを使い、大量のネズミを操って上下線の線路に移動させる。


 線路上にネズミを配置した。


 ネズミは上下線の車両にひかれ、瘴気で穢れた血肉が線路に広がる。


 またネズミを操り、線路へ移動させて車両にひかせる。


 これを繰り返して八箇所の区間をネズミの血肉で繋ぎ、上下線の環状線を血の二重円として描く。


 さらに高架下の裏や支柱などの五箇所に呪符を貼った。


 歪んではいるが、東京の中央に五芒星を整える。


 東京に血の魔法陣の準備を終えた。



◆   ◇   ◆



 陽が沈む夕暮れ。


 玉兎会は五芒星の中心、靖国神社に現れた。


 すでに営業を終了して閑散としていた。


 一番目の鳥居で通りかかった男を呼び止めた。


「あなたの力を貸して頂きたい」


「はあ? な、なにをするのですか?」


 男は不意なお願いに怪訝な顔をすると、滋岳が両肩を掴む。


 突然、激しい雷鳴が鳴ると男は感電死していた。


 その男を鳥居の中へ投げ入れると、一つの結界が消えた。


 異変に気付いた警備班が駆け付け、八人の姿を見て無線で連絡した。


玉兎会ぎょくとかいが現れた! 全員だ。全員いる!」


『本部、了解。交戦を許可する。すぐに近くから増援を送る』


「靖国警備班、了解。交戦しながら、増援を待つ」


 無線を入れた班長が人払いの術を発動して一般の人を遠ざける。


「戦闘準備! やるぞ!」


 警備班の巫が柏手を打って祝詞のりとを捧げた。


 神衣(かむい)の加護を警備班の四人に与えた。


 百二十センチある木の円棒、警戒杖けいかいじょうを装備した警備員が二名は前に出る。


 警備班の動きを見た鬼一が芦屋に聞いた。


「あちらは防衛しながら増援を待つつもりらしい。どうする?」


「ここは全力で突破する」


 その言葉に玉兎会の全員は鬼へと姿を戻す。


 カシラとライカは片手の拳を握り集中する。


 腕に雷光が輝き、前に突き出すと同時に稲妻が走った。


 前にいる警備員二人が声を揃えて詠唱する。


「「桑原、桑原!」」


 天神の雷避けで稲妻が四散して消えた。


 カシラは少し感心した。


「対策済みという事カ」


「ワシがやろウ。あとは上手く、やってくレ」


 クロスケが前に出ると、両手の拳を握り集中する。


 拳に黒みがかった雷光が光り、拳を開いて前に突き出す。


「良く見ロ。閃雷せんらい!」


 カッと眩いフラッシュが閃いた。


 警備班は天神の雷避けを唱えるも効力はなく、視界に強い焼き付きを受ける。


 視界を奪われた四人の態勢は崩れた。


 鬼たちはその爪を立てて警備員の退魔師四人を屠る。


 カシラたちは遺体を引きずり、二番目の鳥居、中門鳥居の中へ放り込む。


 それぞれの結界を消して神社本殿、社が目の前にあった。

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