第67話 百地の調査2

 夏の夕暮れに雑居ビルへと向かう百地の姿があった。


 その雑居ビルから滋岳が表れて、百地の前に立つ。


 滋岳が静かに話し始めた。


「色々と我々を調べているようだな」


「何を言っているのか分からないですが、人違いじゃないですかね?」


 百地は平静を装いながら考えた。


玉兎会ぎょくとかいから接触してくるとは想定外だ。何とかやり過ごすしかない)


 滋岳は眼鏡を掛け直して呪符を手にして追及した。


「我々のセキュリティを甘く見ていたようだな。ネズミやカラスの式神からお前の行動は知っている。何者か、教えてもらおうか?」


(そういうセキュリティかよ! こいつからは強い殺気を感じる。ここは逃げるしかない)


 突然、百地は路地を走って戻りだした。


 滋岳は呪符を指に挟み、刀印を結び唱えた。


罰示式神ばっししきがみ夜烏よがらす! あの者を追え!」


 カラスのような式神を召喚すると、滋岳も走り出した。


 走りながら、百地は装備を確認する。


(とても鬼や式神を相手にできるものを持ってないか。棒手裏剣と特製の発煙筒が一番有効そうだが、使いどころだな)


 普通の手裏剣と祓い刀の破片から作った手裏剣の二種類。


 煙玉は藤の花を粉末にして混ぜている物だった。


 百地は空からカラスらしき式神が追っている意識しながら、木々が多い公園へと逃げ込んだ。


 すぐに発煙筒を使い、隠形を行って身を隠した。


 夜烏よがらすは木の枝にとまって周囲を確認する。


 公園に追いついた滋岳は煙が漂う中、人払いの術を発動した。


 そして辺りを見回して呟いた。


(……人払いの術に対応している。さらに隠形で身を隠しているようだ)


 滋岳の目から自然と涙が流れ、咳き込むようになる。


(この煙は藤の花の粉末を混ぜてあるのか! 俺の視界を奪って逃げる気だな。なら、式神を増やして追い立ててやる)


 三枚の呪符を取り出して刀印を結ぼうとした時、その手に手裏剣が飛んで来た。


 不意の攻撃に呪符を落として手の甲に手裏剣が刺さる。


 しかし血は吹き出ず、手裏剣が飛んで来た方向を見ながら滋岳は手裏剣を引き抜く。


 傷口はあっという間に塞がり、滋岳は黒い煙と共に鬼へと変化していった。


 百地は確信を得た。


(思った通り、鬼か。これで十分だ)


 さらに百地は夜烏に祓い刀の破片で作った手裏剣を打ち込み。


 木から落とした。


 立ち込める煙を利用して公園から逃げ出した。


 ナルヤが煙の範囲から抜け出した時には百地の姿はなかった。


「くそッ! 逃がしタ!」


 ナルヤはその場で大いに荒れた。


 暫くすると、人の姿に戻して人払いの術を解除、式神を戻す。


 全員に報告するのが先だと思い、冷静になった。



◆   ◇   ◆



 黄泉平坂にある大岩の前に鬼たちは集まっていた。


 話をナルヤが切り出した。


「何者かに事務所の所在を知られてしまいましタ。そしてその者を逃がしてしましましタ。すみませン……」


 いつも卒なくこなすナルヤの謝罪に、周りはざわついた。


 カシラは言った。


「気にすることではなイ。ワタシも手を打たなかっタ」


「しかし、玉兎会ぎょくとかいや縁切り請負屋として活動ができなくなったのハ……」


「構わなイ。事務所は破棄して活動を終わりにすル。ナルヤ、次に挽回すれば良イ」


 カシラはナルヤを許した。


 続けてカシラは言った。


「まずは東京にある玉帯水ぎょくたいすいの範囲。NR山野線の外側にある神社を穢して地脈を弱らせるのダ。東京の下水にばら撒いた砂利から流れ出る瘴気が溢れるまデ。時もあと少しダ」

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