第63話 おしら様3

 陽が地平線に沈んでもすぐに暗くならない夏独特の空。


 薄明の中、直輝たちは路地を進む。


 突然、直輝は結花の手を掴んだ。


 歩くのを止めた結花は路地の先を確認する。


 路地に人が無く、道の真ん中で赤い着物を着た女性が立っていた。


 御鏡は人払いの術を発動して、無用な人が巻き込まれないようにした。


 女性は結花を見ながら、しゃべった。


「首が痛いの。だから、あなたの首と交換して」


 周囲の空気が変わり、異界化が周りを侵食する。


 木の人形へと顔が変化していく。


「アナタの首と交換しテ。……交換しテ。……交換しテ」


 おしら様が妖魔の姿へと変えながら、結花へ走り出す。


 直輝と結花は陽で木行の相剋である脇構えで迎えた。


 御鏡はおしら様との距離を見極めて、八卦炉結界はっけろけっかいの術を発動させた。


 同時に莉緒は柏手を打って祝詞のりとを捧げた。


 神衣の加護を全員に与える。


 おしら様は走りながら、結花の首を目標に手を伸ばす。


 その手を躱して結花は胴を薙いだ。


 続けて直輝が逆胴でおしら様の横を抜ける。


 しかし、今までと違って表面を撫でるような手応え。


 二人で挟むように対峙し、いつもと違う手応え驚きながら言った。


「そんな、私の攻撃が効かない!?」


「斬れない。どうして?」


 二人の攻撃はおしら様に傷を与えることが出来ない。


 動揺する二人に鏡を表返した御鏡が声を上げた。


「稲葉、武宮! よく視てみろ。あれは荒魂あらみたまだ」


 教えられた直輝たちは見鬼でオーラを確認する。


 神気である金色のオーラがおしら様を薄く包んでいる。


 莉緒が御鏡に訊ねた。


荒魂あらみたまとは、どういうことでしょうか?」


「元が神様の場合、神気を纏った妖魔になることがある。神気は陽の気で、清め塩や陽の攻撃だと効果が無い。より強い陽の気なら問題はないが、それは無理だろう」


「それでは、二人が不利じゃないでしょうか」


「ああ。だが、布津流には陰の構えがある。二人とも八相の構えだ!」


 その声に直輝と結花は野球のバット構えるような八相の構えへ変える。


 陰の構えでもあるこの型は、刀身に陰と木行の気を宿す。


 直輝は踏み込んで、おしら様の左肩から袈裟斬りを狙った。


 それを躱して直輝の喉元へ手刀で突く。


 直輝は後ろへステップしながら、引き小手打ちで斬りつけた。


 今度は手応えがあり、おしら様の右腕に傷がつく。


(思ったより斬れない!)


 動揺したとはいえ、直輝の打ち込みは十分だった。


 しかし男性である陽の気と陰の構えで相殺。


 それでも陽の気が強くて予想より斬れないでいた。

 

 反対側から結花が同じように袈裟切りで斬り下ろす。


 おしら様は前に出て、手で祓い刀の柄を抑えに来た。


 柄で払い上げて、その腕へ小手を打つ。


 おしら様の左腕は肘から先がスパッと斬り飛んだ。


「ぎゃああアァァァァ!」


 悲鳴を上げながら、腕から黒赤い煙が噴き出る。


 おしら様は切れた左腕を結花に向けて力を入れる。


 腕の代わりに木の枝を生やして伸ばした。


 無数の枝が結花を捕えようとする。


 結花は枝を祓い刀で斬り払うが、枝は伸び続けた。


 押し負けて金網のフェンスとの間に挟まれる。

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