第62話 おしら様2

 御鏡は依頼主のいるマンションにいた。


 インターホンを押して告げる。


「武宮家から派遣された者です」


 依頼主の女性はロックを解除して部屋へ迎え入れた。


 女性は御鏡に体験したことを真剣に話した。


「……顔の痛みが無かったら、信じたくなかったです」


「失礼します。少し確認します」


 女性の顔は左側が腫れて顔が曲がったように見える。


 御鏡は見鬼で視ると、紫紺色しこんいろのオーラあった。


 霊障で腫れていることが分かる。


「お医者さんでも腫れの原因がわからないし、オカルトなことに頼るしかなくて……」


「お気持ちは分かりました。霊的な障害で腫れているのでしょう。心当たりはありませんか?」


「お盆の時に実家で人形を落として壊してしまいました」


「その人形はどういうものか、分かりますか?」


 女性は思い出して言った。


「亡くなった祖母の物でした。神棚にあった木の人形で、赤い着物を着ていました。

 大きさはこのくらいです」


 手で大きさを表し、人形の特徴を細かく教えた。


 御鏡は手帳にメモを取りながら言った。


「その人形はおそらく“おしら様”です」


「おしら様?」


「東北地方で信仰している家の神です。蚕や農業、馬の神としても信仰されています。壊したおしら様の人形は、どうしたのですか?」


「父が燃えるゴミとして捨てました」


 「そうですか」と答え、御鏡は納得した。


 粗末な扱いを受けたおしら様に禍津日まがつひが憑き、祟っているのだと御鏡は考えた。


 女性は不安から必至に訴えた。


「次は“首を交換して”と、言っていました。折ってしまった首を交換したら、私は……」


 涙目になった彼女は視線を向けて言った。


「助けてください!」


「大丈夫です。状況を考えて、物忌みを行いましょう」


「物忌み? 何ですか、それは?」


「呪符を貼った家であなたは籠り、おしら様からあなたを隠します。その間、武宮家で解決に向けて対処します」


 御鏡は許可を得て部屋の四方に呪符を貼りだした。


 寝室の机にある厄除けの守りを見て御鏡は納得した。


(これのおかげで、無事だったのか)


 貼り終えると、次にジャケットのポケットから紙とペンを取り出した。


 その紙は人の形をしたものだった。


「この形代にあなたの名前をフルネームで書いてください。囮の身代わりになります」


「囮の身代わりですか」


「ええ。呪いや厄災をその人に代わってくれる紙で作られた道具です。おしら様には、これがあなたに見えます。この形代を囮に使います」


 女性は半信半疑ながらも名前を書いて御鏡に渡した。


 御鏡は幾つかの注意点を教えて、マンションを後にした。



◆   ◇   ◆



 直輝たちは武宮家の道場に集まった。


 御鏡が話し始めた。


「今日は靖次先生が留守だ。俺が代わりに状況を話す。依頼者には物忌(ものい)みを行ってもらい、家に籠っている」


 御鏡が進行役を行っていた。


 直輝は御鏡に確認した。


「作戦は、どう考えているのですか?」


「ここに依頼主の形代を用意してある。これを囮にして、マンション周辺の路地を探索し、おしら様の注意をこちらに向ける。遭遇したら、いつも通りに討伐するつもりだ」


「分かました。しかし、形代だけでその人に見えるのでしょうか?」


 莉緒は気になって訊いた。


「そうだな。俺よりは女性が持っていたほうがいいだろう。武宮に任せようと思う」


「私ですか?」


「背丈が近いし、布津流なら接近されても対処できる。近接戦闘は俺や新条では無理だ。別に一人に任せる訳でもない。俺らも一緒だ」


「分かりました」


 御鏡が理由を答えて納得した。


 形代を渡すと、直輝たちはマンションへ向かった。

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