第57話 強欲の鬼女1

 私はお店の厚い木製の扉を開き、ロッカーへ向かった。


 白のスーツにダークブルーのキャミソールと短いスカートに着替える。


 二十歳でキャバクラ嬢となった私は、男たちがお金を使うように仕向けて大金を貰う。


 水商売の仕事に就いた。


 源氏名は藍子あいこ


 若い年齢と容姿、発育がいい胸の大きさは、この業界で武器になった。


 僅か三ヶ月で店のナンバー1キャスト真唯まいを抜いて、トップになったのだ。


――ガンッ!


 ある日、出勤したらロッカールームから音がした。


 それと共に真唯が他のキャストと話す声が聞こえた。


「あいつのヘルプに付きたくない!」


「調子乗っているよ!」


「指名を取られて頭にくるよね」


 ナンバー1の座を奪われ真唯とその取り巻きが私の悪口を言っていた。


 私は平静を装ってロッカールームへ入った。


 真唯が白々しく挨拶した。


「藍子、おはよ~」


「はい、おはようございます」


 ぐっと堪えて挨拶すると、みんなは出て行った。


(……耐えれば何とかなる。それまでの我慢よ)


 私はロッカーの前で唇を噛みながら思った。


 真唯が仕方なくヘルプで私の客に付いた。


 しかし、連絡先の交換や嘘の噂を流していた。


「藍子は体使って営業しているからねぇ」


「ホテルから出てくるところ見たことあるわよ」


「私には真似できない~」


 待機している時も「誰にでも色目を使う」などと罵られた。


 しかし、私はそれらを我慢してやり過ごした。



◆   ◇   ◆



 次の日、同伴出勤した私は客を席に待たせて着替えにロッカーへ向かった。


 ロッカーにあるはずのスーツとパンプスが無くなっていた。


 慌てて探すと、半透明のゴミ袋に入っていた。


 ゴミや埃まみれのスーツが見つかった。


(あの女……まだ我慢――)

――いや、絶対に許さなイ。見返してやル!


(そうよ。私はもっと上を目指したい)

――あの女との売り上げをもっと引き離して、差を見せつけってやル!


 急に怒りが込み上げて顔が真っ赤になった。


 ゴミや埃を掃って着ようとしたとき、後ろから二つ年上の菜々美(ななみ)が声を掛けて制止した。


「これは酷いわね。真唯たちは接客中も明らかな態度だし、いじめね。もしかして、お店辞めようと思っている?」


「これくらいじゃ、辞めません」


「それなら、私のスーツとサンダルを貸してあげるわ。私は別の着る予定だから」


 薄いグレーのスーツとヒールの高いサンダルを私は受け取った。


 菜々美は紙袋に私のスーツを入れてロッカーへ戻した。


 ホロリと涙が出る。


 思っていた以上に自分自身が孤独だと感じていたのだった。


 自然と言葉が出た。


「……ありがとう」


「いいわよ。それより、いじめ対策を教えてあげるわ」


「え、どうして私に?」


「私、藍子ちゃんのことが気に入ったから」


 対策を教えて貰い、私は送り出された。

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