第56話 死食鬼4

 グールの爪が届く前に喉に刃が突き刺さる。


 黒い煙と共に光の破片が散り消え、禍津日まがつひが祓われた。


 結花も声を上げた。


「二匹目!」


 イゾルデはグールと攻防を繰り広げていた。


 他の二匹が祓われる様子を見て少し感心していた。


(やるわね。武宮家の退魔師)


 厳しい表情に変えてグールの爪を受ける。


 受けた刃を滑らせて五本の指を切り落とした。


「もう貴方だけ、終わりにしましょう」


「オレ、一人だけエェェェ……」


 イゾルデの言葉にグールは消極的になり、逃走を計った。


 教会の窓を突き破ろうと体当たりする。


――バチンッ!


 張られた結界に強く弾かれて床に転がった。


 イゾルデが歩み寄って左手で短剣を構えた。


 改めて言った。


「終わりにしましょう」


「うぉオレは、終わらららなイィィィ!」


 起き上がったグールは残った片方の爪でイゾルデへ振り下ろした。


 イゾルデはその爪を躱し、手首ごと切り落とした。


 続けて両太ももを深く刺して、グールの両膝が床に付く。


 イゾルデは左手で逆手に持った短剣を振り上げた。


 そして右手で十字を切りながら祈った。


「主よ、この悪魔に慈悲を与えてください。主よ、この悪魔に永遠の安息を与えてください。

 父と子と聖霊の御名によって、アーメン」


 短剣を両手に持ち替えてグールの頭へ振り下ろし、喉まで刃先が達した。


 グールの姿が黒い煙となって消え、聖別された短剣は祓断ちと同じように禍津日まがつひを光の破片に変えていく。


「……三匹目」


 イゾルデは合わせるように呟き、戦いが終わったことを告げた。



◆   ◇   ◆



 気を失った男性を病院へ搬送したが、翌日には退院した。


 後日、教会へお礼を兼ねて訪れた。


「神父様、シスター、この度はご迷惑をお掛けしました。体はもう大丈夫です」


「それは何よりです。その後、奥様への考え方はどうでしょうか?」


 神父は優しく問いかけた。


 男性は晴れやかな顔をして答えた。


「あの決断は自分と彼女の二人でしたものだと、考えを改めました。それにシスターの言葉で自分には役目があると分かりました。それに彼女は微笑んで子供を抱いたことを思い出しました」


「私の言葉で役に立ったのであれば、それは良かったです。きっと、主が貴方のためにお言葉を下さったのでしょう」


 イゾルデは十字を切って謙虚に喜んだ。


「これからはシスターの言う通り、大きくなった子供に生前の彼女のことを教え育てようと思います。ありがとうございました」


 男性は背筋を正して教会を後にした。


 神父とイゾルデはその後姿を神の加護を願いながら見送った。

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