第52話 市境の心霊スポット5
直輝と結花が三輪車の幽鬼を二人で祓い絶つ。
核のない幽鬼は少し離れた場所に再度現れ、また瘴気を吸収する。
瘴気に誘われた小さい
直輝が結花へ声を掛けた。
「他の幽鬼が現れ始めた。僕らで時間を稼ごう」
「そうね。まだ数が少ないから、二人で何とかなる」
結花は周囲にいる三体の幽鬼を視たあと、護摩壇の状況を確認した。
高野は護摩木を新たに焼べて炎の勢いを増す。
御鏡が護摩壇から少し離れた場所で骨壺を開けた。
そして土行呪符を二枚取り出して指に挟み、刀印を結んだ。
「その清められた砂を増やせ、急急如律令!」
護摩壇の炎を火行の気へ分解、呪符を通して土砂加地に変換する。
二枚の呪符で
護摩壇の炎が小さくなるたびに、高野が護摩木を投入する。
砂の量を見計らって御鏡は声を絞った。
「……新条!」
柏手を打ち、手を合わせて莉緒は
「掛けまくも畏き
国生みで朝霧を払った風の神へ願い、自身に降ろす。
風を操り、つむじ風を作りだした。
高野は左手の人差し指を伸ばしたまま握り、右手でその人差し指を握る。
智拳印を結んで真言を唱えた。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン!」
御鏡は瘴気が抑えられた地面を見渡し、叫んだ。
「あそこだ! ショベルカーがある辺りだ!」
「私が行こう。新条さんは二人の援護を頼む」
肩で息をしている御鏡に代わって、高野が指示して走り出した。
見鬼で確認すると、
掘り下げられた穴へ飛び下り、袖から
高野は再び智拳印を結んで真言を唱えた。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン!」
突き刺した独鈷杵の下から細い煙が立ち昇り、
同時に子供の幽鬼は姿を消した。
新たな幽鬼は直輝たちに祓われ、辺りに静けさが戻った。
高野は足元の土を払い、みんなを穴の周りに集めた。
「これを見てくれ」
携帯のライトで照らされた土の中に、首の無い子供の白骨遺体が見えた。
直輝は唾を飲み込み、高野に確認した。
「もしかして、あの子供の……」
「そうであろうな。しかし、これは警察の領分だ。私から連絡しておくとしよう。供養依頼を受けたのは拙僧だからな」
全員で合掌すると、高野はお経をあげて供養した。
◆ ◇ ◆
後日、廃工場の敷地内から行方不明の経営者一家が白骨遺体として発見された。
ニュースになった頃、高野が武宮家を訪れて廃工場の件を話した。
「廃工場は予定通りホームセンターになる。ただ敷地内に祠を立てることにしたそうだ」
「
結花は前向きだと受け取った。
気になっていた直輝が高野に聞いた。
「……子供の幽鬼は救われたのでしょうか? 何度も斬り祓っても現れるたびに想いの強さを感じました」
「ふむ。遺体も見つからず、
直輝はまだ腑に落ちない感じで聞き返した。
「供養とは、なんでしょうか?」
「本質は故人を安らかにすること、であろうな。故人の好きなものを供え、思い出を語る。強く故人を想うことだ。退魔は祓うことが供養と思っている。それ故、二人はしっかり供養できたと拙僧は思うがね」
二人の納得した顔を見て、高野は道場を去った。
供養することについて、直輝は父親のことを想った。
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