第51話 市境の心霊スポット4

 不動明王真言の詠唱が速まり、早口で繰り返す。


 直輝たちが十匹以上の幽鬼を祓ったころ、高野の護摩炊きは終わりを迎えた。


「――センダ マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カンマン。

ノウマク サマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カンマン!」


 この廃工場にいた幽鬼が一斉に炎に包まれて燃え上がった。


 あちこちから幽鬼の悲鳴が聞こえる。


「――あアあぁぁああぁァァァァァ……」


 核である禍津日まがつひごと不動明王の炎で浄化した。


 高野は片手にれいという仏具を持ち、その小型の鐘を三度鳴らす。


――チリーン……、チリーン……、チリーン……。


 禍津日まがつひは形を崩しながら、線香の煙のように消えた。


 高野はにこやかに告げる。


「上手く終えられた。みなのおかげだ」


 直輝たちは注連縄の結界内に集まった。


 一息つたときに不意に聞こえる。


――キコ、キコ、キコ。


 結界の外、三輪車に乗った頭の無い子供が護摩壇の裏側にいた。


 高野は手を合わせて申し訳なく言った。


「ああ、愚僧が未熟ゆえに浄化し損ねた幽鬼がおったか」


 両手の中指、薬指、小指を絡め組み内縛し、人差し指を立てた。


 独鈷印どっこいんを結んで唱えた。


「ノウマク サマンダ バザラ ダンカン!」


 集中して真言を詠唱すると、子供の幽鬼は炎に包まれて姿は霧散する。


 そして霧散した子供の幽鬼は改めて形を作り、元に戻る。


 全員が驚愕して直輝が高野に尋ねた。


「これ、どうなっているんですか?」


「この幽鬼には禍津日まがつひがない。核は別のところにあるな。おそらく、ご遺体や思い入れの強い遺品が近くにあるに違いない」


 それを聞いた直輝は御鏡に視線を送った。


 御鏡は首を振った。


「この土地自体から瘴気が立ち昇って核の場所が分からない。土地を一時的にでも清めることが出来るなら……」


――バチッ!


 子供の幽鬼は結界に弾かれると、土地から瘴気を吸収して大きくなる。


 頭の無い幽鬼は二メートル、三輪車は高さ一メートルの大きさとなった。


 子供の幽鬼は三輪車を漕ぎだした。


――キコ、キコ、バチッ! バチッ!


 何度も結界に三輪車で体当たりする。


「このままでは、結界を保てない。どうするか……」


 悩む御鏡の横で直輝が思い付く。


「清め塩と土砂加地どしゃかじの砂を使って、どうにかなりませんか?」


「清め塩は半分ぐらい使ってしまっています」


 莉緒は小瓶を見せ、高野が小型の骨壺を取り出して言った。


「考えはいいが、量が足りないだろう。倍ぐらいは必要だ」


「いえ、土砂加地どしゃかじの砂を増やして使いましょう。新条は風の神で増やした砂を散布する用意をしてくれ。やれるか?」


「やれます!」


「よし。稲葉と武宮は幽鬼の相手を頼む。高野さんと俺は護摩壇を利用して土砂加地どしゃかじの砂を増やす」


 話を終えた時、注連縄しめなわが弾け飛んだ。

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