第43話 釣瓶落とし3
――ピピッ!
御鏡が警備用のカードキーで正面の自動ドアを開け、メインエントランスへと入る。
合流した直輝たちが後に続いた。
商業施設に近いタワーマンションから探索を開始したのだった。
エントランスはホテルのような高級感、天井が高くて開放感を演出している。
夜に合わせて温かみのある色調で照明が変わっていた。
場違いな場所に気圧された直輝が言葉にした。
「ここって、どんな人が住んでいるんだろう?」
「高級なホテルのようですよ」
「いくらぐらいで住むことができるのかしら……」
結花と莉緒も周囲を見回して言葉と共に感嘆が漏れる。
「おい! こっちだ」
御鏡が案内板へ三人を呼び寄せた。
「エレベーターは居住用が六基、運搬用が一基のようだ。手分けして見鬼で確認するぞ。一階へ降ろしてエレベーター内を見鬼で視るとしよう」
方針に従って直輝たちは居住用のエレベーターを一つずつ一階へ降ろした。
エレベーター内は多人数が乗れるように通常より大きい空間だった。
下りて来た順に見鬼で視て確認した。
御鏡は首から掛けている鏡を表にする。
そして三人に確認を任せると、万が一のために呪符を用意して警戒していた。
確認している一基に淡い
「御鏡さん、このエレベーターのようです」
「そうだな」
「どうしましょうか?」
「このままだと、変化はないようだ。これは中に入るしかないだろう。稲葉と俺で中に入る。武宮と新条は備えていてくれ」
直輝が中に入ろうとすると、御鏡が肩を掴んで止めた。
「待て。一人の時に被害が出ているようだ。俺は隠形術で妖魔から姿をくらます」
三人はエレベーター前から離れ、御鏡は術の動作に移った。
左手の人差し指と親指で輪を作り握ると、右手の掌の上に置いて隠形印を結び詠唱する。
「オン マリシエイ ソワカ」
見鬼で視ていた直輝たちは御鏡から
御鏡は印を解いて無言でエレベーターの奥へ乗り込む。
息をのんで直輝がエレベーターの中へ入ると、妖魔のオーラが濃くなった。
――
エレベーター内に声が響く。
直輝の足元が急にグニャリと凹んだ。
「うわっ!」
足元が沈み仰向けに転んだ。
エレベーター内の電灯が一瞬消えて戻るとドアが閉まり始め、直輝の首へ迫る。
慌てて両手で力一杯に閉じるドアを拒む。
「……稲葉、足をこっちに」
隠形を解いた御鏡が手を伸ばす。
しかし御鏡の足元が上下にうねり、手助けが出来ないように邪魔が入る。
思い付いた莉緒は柏手を打ち、手を合わせた。
結花は駆け寄り、エントランス側から手を貸してドアを食い止めた。
「い、今のうちに……」
「結花、ありがとう」
結花の声に直輝が態勢を整えようとすると、エレベーターが上へ動き出す。
今度はエレベーター入口の上辺に迫って来る。
莉緒が柏手を打ち、
「掛けまくも畏き
岩戸開きを行った一柱である力の神を降ろして、直輝に剛力を付与した。
直輝は両手を立てて挟まることを拒んだ。
「新条さん、助かった。しかし、床がうねって邪魔してくる。このままじゃ……」
「……稲葉。少し荒っぽく行くぞ」
「え? 何をするんですか?」
「少し痺れさせる。動きが止まったら、すぐに中に入れ」
壁に寄りかかった御鏡が金行呪符を取り出して、天井へと飛ばす。
「電気よ。集まり、雷となれ! 急急如律令!」
一瞬エントランスなどの明かりが消えて、バシュッという音がエレベーターの天井で鳴った。
エレベーターの動きが止まり、床のうねりも収まっている。
直輝がエレベーター内に入り込んで態勢を立て直した。
「稲葉、今だ! 床に突き立てろ!」
「はい!」
直輝は祓い刀を抜き、床に突き刺した。
柔らかい肉に突き刺したかのように刃先が沈んでいく。
そして
エレベーターがガタガタと揺れたと思ったら、急にガクンと一階へ落ちた。
床が大きく持ち上がり、口から吐き出すようにエレベーター内から直輝と御鏡が転げ出る。
妖魔のオーラと共に黒赤い煙がエレベーターから離れて消えた。
「直輝、大丈夫?」
「うん。それより、あの妖魔は何処へ……」
ドスンと外で大きな音と振動が伝わり、結花に答えた直輝が外を見ると黒い塊があった。
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