第31話 赤き大鬼

 同県の山中。


 二メートルを超える男が夜闇で唸っている野犬の群れを睨み付けていた。


 大男はショートの金髪、三白眼に黒い瞳で日本人離れした体格。


 秋も終わり頃にも拘わらず、半袖のTシャツとジーンズを着た外人のように見える。


「ほら、来いよ。野良犬ども。……仲間を殺したんだぞ?」


 ニタニタと笑い、犬に向かって挑発した。


 数匹の犬が大男の足首や腕を狙って噛みつく。


 しかし大男は犬を蹴り払い、投げ捨てた。


 噛みつかれた傷口から血が流れず、付いた歯型の内側から黒赤い煙が溢れて跡を消していく。


「あはっ! いいぞ、怒りを感じる攻撃だ」


 大男の後ろで様子を見ていた鬼の姿のカシラへ声を掛けた。


「カシラ、送り狼にした野良犬はどうだったよ?」


「ああ、役に立っタ。ライカ、他の野良犬も式神にして戦力とすル」


「良かったな、野良犬ども。愛玩動物として飼われ、身勝手に捨てられたお前らの怒りや憎悪が役に立つ。妖魔となってニンゲンへ復讐できるゾッ!」


 火雷ほのいかづちのライカは黒紅色くろべにいろの煙で体を覆う。


 三本角の赤鬼へ姿を変えて紺碧色こんぺきいろの瞳で野良犬の群れを見る。


 髪型、髪の色をそのままに三メートルに達する筋骨隆々の巨体となる。


 唐紅色からくれないいろの肌を露出した上半身、股下は黒地の狩袴を履いていた。


 野犬の群れは大鬼となったライカに後退あとずさりを始めた。


 ライカは片手に拳を握り集中する。


「送り狼とするには、オマエらの死が必要ダ」


 握った拳の腕に赤みがかった雷光を纏った。


 その腕を横一閃に振るうと、幾重にも別れた細い稲妻が野犬の群れを貫いた。


 十匹以上いた野犬は一瞬で駆逐される。


 カシラは封神呪符を数枚取り出し、禍津日まがつひを開放した。


 赤い小さな光が犬の死骸へと吸い寄せられた。


 数匹の死骸から人間への怒りや憎しみを吸収して成長する。


 送り狼が三匹生まれ、カシラは刀印に三枚の呪符を挟みながら詠唱した。


三清さんせい元始天尊げんしてんそんを奉り、封神台ほうしんだいことわりを用いて妖魔を封じル。呪縛封神じゅばくほうしん、急急如律令!」


 その呪符を飛ばして送り狼を式神として封印し、念で手に回収する。


 ライカは犬の死骸を見て言った。


「活用させてもらうサ」


 指を鳴らすと全ての犬の死骸は赤い炎に包まれて燃え尽きた。


 思い出したライカはカシラに聞いた。


「そういえば、聞いたゾ。退魔師にやられたそうだナ?」


「……ああ、不覚をとっタ」


 カシラは明らかに嫌な顔をする。


 その答えにライカは楽しそうな顔をして続けた。


「強いのカ?」


「消耗していたとはいえ、見所はあったナ。だが、すでに始末しタ」


「なんだヨ。……肝心なことをアイツら話さなかったナ」


 悪態をつくライカを放置し、カシラは呪符を数枚取り出した。


 赤トンボ型の下級式神を連絡用に放ち、きびすを返した。


「そして全員を招集すル。黄泉平坂へ行くぞ、ライカ」

 

 後に続くライカが普段と違う展開に驚く。


「珍しイ。……何かあるのカ?」


 カシラは「アア」と答えてニヤリと笑った。

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