第27話 疑心の黒鬼9
御鏡は結界へ向かってくる小鬼がいないことを確認した。
しかし校舎から新たな小鬼が現れていることも確認して、莉緒に指示を出した。
「新条、まだ結界を解くことはできない。二人の支援を頼めるか?」
「はい。やってみます」
初めての実戦で莉緒の疲労がみえる。
それでも子供たちを護るため、御鏡は頼るしかないと判断した。
莉緒は深く呼吸をしてから柏手を打ち、手を合わせて
「掛けまくも畏き
我が目の前にある
手に光の弓矢が現れ、人が扱えるように物質に変化、形成する。
神気を纏った綺麗な朱色の弓、羽の付いた破魔矢となった。
弓を構えて小鬼を狙い、矢を放つ。
素人でも外すことのない神の矢は、直輝の後ろにいる小鬼の核を射抜いて消し祓った。
矢を持っていた手に集中すると、次の矢が光から形成されて現れる。
さらに結花の横にいる小鬼を狙い撃ち抜いた。
消える小鬼を横目に確認して、結花は黒鬼に斬りかかた。
鬼は爪で受けて左手を振り上げた。
しかし振り上げた鬼の腕は矢に射抜かれて二の腕から千切れ、後ろの木に腕ごと刺さる。
黒紅色の煙が千切れた二の腕から吹き出る。
黒鬼はその腕を抑えながら後ろに数歩下がり、校舎の壁側へ追いやられた。
直輝が最後の小鬼を斬り祓うと、結花と並んで黒鬼に構えた。
「後はお前だけだ」
「……この場は負けを認めてやル」
「逃がしはしない!」
鬼の捨て台詞を言うと同時に直輝と結花が動く。
黒鬼が大きく跳躍する時に結花の鬼の左脇腹を斬りつけ、直輝は鬼の右足を斬り落とした。
バランスを崩した黒鬼は腕が刺さる後ろの木の上に着地できず、校舎の壁に当たった。
姿を保つことが出来ずに短い断末魔とともに煙へと変わる。
そして黒炎が揺らぐ赤い人魂が二階と三階の間で浮遊し、ゆっくり落ちてくる。
直輝は息を吐きながら納刀した。
「よし、終わった。……あの場所は届かないな。落ちてくるまで待つしかないか」
「……ちょっと、何かおかしいよ。あれを視て!」
直輝は結花に言われて視ると、校舎の外壁に沿って黒鬼の煙が屋上へと吸い寄せられている。
校舎に溜まっていた陰の気も全て屋上へと向かって消えていく。
結花がマイクを通して御鏡に報告した。
『御鏡さん! 黒鬼を倒したのですけど、屋上に何かあるようです』
『了解した。浮いている
報告を受けた御鏡は見鬼で視る。
(鬼隠しの結界は解けていない。そして気の流れが屋上へ向かっている。他に何かいるようだ。……しかし今のままでは、さすがに見えないか)
両手の差し指を伸ばして握り、親指は中指の上に置いて手を背合わせにする。
背合わせの人差し指を絡め、広目天の印を結んで真言を詠唱する。
「オン ビロバタシャ ノウギャ ヂハタエイ ソワカ」
千里眼と呼ばれる遠視を発動して屋上を確認した。
一部の場所だけ視線が逃げた……いや、避けてしまう。
(これは隠形術で隠れている奴がいる! 屋上の出入り口の裏辺りか)
御鏡は全員に千里眼で視た状況を伝えて指示を出した。
『稲葉、武宮。屋上の出入り口の裏に隠形で隠れている奴がいる。今から九字切りで破術を試みるから、それと同時に踏み込め』
『分かりました』
『了解です』
「新条も構えて狙え」
御鏡は結界を解いて、全力で九字切りを行う。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前っ!!」
破術が成功して鉄紺色の青黒いオーラが視え、素早く全員に伝えた。
『今だ!』
莉緒が矢を放ち、直輝たちも屋上へと出る。
矢は肩辺りに命中するが、さっきの黒鬼のようなダメージを与えられていなかった。
直輝が裏へ回ると詠唱が聞こえた。
「――遁行、急急如律令!」
――ガラッ。
そして、その場所にあった置石が今砕けた。
結花は逃げられたことを悔しがった。
「あと、ちょっとだったのに!」
直輝は今の黒鬼が陰陽術を使っていたことに、あの鬼との繋がりを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます