第25話 疑心の黒鬼7
三人はわっと体育館裏からグランドへ逃げ出し、続いて蓮たちも駆け出した。
靄は学校全体を包み、敷地外の風景が凹凸レンズを通したように歪んで見えていた。
蓮は鬼が実体を持っていることや周囲の異様な様子に不安を煽られた。
走る三人は突然転んで倒れる。
靄の中、はっきりとしている三人の
手を離した黒い小鬼は地面から体を引き上げて、倒れた三人を見下した。
彼は小鬼に叫んだ。
「なんだよ! 何で鬼がいるんだよ!?」
「……鬼にオニだってヨ。オマエはお笑いのセンスがあるナァ」
小鬼は彼の声で話す。
他の小鬼も仕草と人の声を真似て言った。
「ははっ、そうだナ。本気で怯えた顔していたゼ。面白いな、ニンゲンハ!」
「よし、仲間に入れてやるヨ。鬼側で、ナ」
実体化している小鬼たちは三人の子供たちの肩や腕をがっしり掴んだ。
そして小鬼の半身が黒紅色の煙となって子供たちへと絡み始めた。
絡みつく煙を振り払おうと腕を振るが徐々に飲み込まれる。
彼は泣きながら嘆いた。
「い、嫌だよ。どうしてこんな……」
体育館裏にいた黒鬼が現れて答えた。
「我らの言葉に耳を傾け、そのまま話ス。その言葉の意味を何も考えず、心を通さず、自分の不安を投げつけル」
続けて体を侵食する小鬼が子供たちの不安をしゃべった。
「次はぼくがいじめられる。ぼくじゃない誰かならいい」
「次は自分が叩かれる。自分じゃないなら誰でもいい」
「次は俺を陥れて仲間外れにされる。俺じゃない誰かを犠牲にすればいい」
心を晒されて三人の子供たちは青くなる。
その子供たちの周りに小さな赤い光が漂い、それぞれの足元の陰に落ちる。
そのことに黒鬼は喜んだ。
「おお、新しい仲間の誕生だ!」
子供たちの陰を吸収して薄くなると、新たに三匹の小鬼が足元から這い出る。
彼は心身を侵食する煙に抵抗する。
「俺は嫌だ。お前らのような鬼の仲間にはならない。俺は――」
「俺は
子供たちの胸元、首元まで煙は侵食して体の半分以上を覆われてしまっていた。
足が震えて動けない蓮は心で祈るしかなかった。
(こんなの駄目だよ。頼むよ……なんとかして、誰か――)
次の瞬間、その願いは叶った。
横から飛び込んできた二人の鮮やかな太刀筋で、煙となって憑いた小鬼たちを消し祓った。
直輝と結花は黒鬼たちと子供たちの間に割って入り、黒鬼は彼らと距離をとった。
二人に続いて莉緒が蓮のそばに駆け寄って無事を確認した。
「間に合った! 大丈夫、蓮?」
「うん、大丈夫。駄目かと思ったけどね」
黒鬼が驚き、怒鳴った。
「どうして退魔師が、ここにいル!? 結界は張ってあったはずダ!」
「鬼隠し。神隠しと同じく領域を展開して外界と分離する。特定の道を辿らなければ、往来ができない結界術。だが、“
最後にグランドへ移転した御鏡が靄の中から姿を現す。
「おのれ……退魔師ガッ!」
莉緒は連や子供たちに力強く言った。
「蓮、私たちに任せて。みんなはそこを動かないで」
「直輝、私たちでやりましょう」
「ああ、僕らでお前ら鬼を祓い絶ってやる!」
直輝は切先を黒鬼に向けた。
しかし黒鬼は余裕を見せて反論した。
「そうはいかン! オマエら退魔師を排除して、この新たな
その言葉に応じて校舎から陰の気が放出され、辺りを漂っていた小さい
建物が陰の気を吸収して新たな小鬼が次々と生まれ現れる。
御鏡は神通力を解いて子供たちのところへ走る。
「俺は子供たちの周りに結果を張る!」
「分かりました」
答えた結花が小鬼の群れを見て直輝に言った。
「いじめはこの子らだけじゃいわね。学校中に蔓延させて学校を貯蔵庫にしているわ」
「そうだね。でも、ここに拠点を作らせない。数が多くてもやることは決まっている」
直輝は握り直して答える。
駆けつけた御鏡は莉緒に指示した。
「新条! みんなに“
「は、はい!」
莉緒は集中して柏手を打ち、手を合わせて神々に
「掛けまくも畏き
大神に捧げられし 絹、
莉緒は織物の神に助力を願い自分に降ろすと、神通力で護りの加護を与える。
全身に薄い光の膜が張って、すぐに消える。
直輝たちや子供たちを含めて全員に“
――
術により神の衣を得てダメージを軽減させる。
――――――――
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