第24話 疑心の黒鬼6
曇り空の放課後、直輝たちは武宮家に用意していた装備を持って小学校へと向かった。
季節の肌寒さも感じない小学生たちの下校する姿を見ながら、校庭側の校門近くで御鏡と合流した。
御鏡はみんなが揃うと現状の説明を始めた。
「早速だけど現状を説明するよ。学校の四方に人払いの術を掛けて、学校の周囲を安全パトロールに扮した清補班がいる。あの人たちは元神宮庁や元退魔師だ。討伐が出来なくなった理由は色々だが、先輩たちに変な気遣いをするなよ」
直輝たちが周囲を確認すると、警部服の上から薄いグリーン色のベストを着た人を見かける。
人払いの範囲から妖魔に対して警戒する六十代ぐらいの人たちがいた。
御鏡は視線を戻して続けた。
「そして学校の四面に破魔の札を張った。先生や子供たちに鬼や小鬼が憑いていたとしても、校門を出るときに引き剥がせる。一時的だが、これで敷地内に鬼どもを閉じ込められる。
俺らはそこの校門から入って中の様子を確認する。小鬼なら単独でも祓えると思うが、黒鬼はグランドへ誘き出して全員で討伐する。いいな?」
三人から返事を聞いた御鏡は車の後部からイヤホンマイク一式を取り出した。
それぞれに手渡して言った。
「学校は広いからな。一応、今回は小型トランシーバーを使う」
神宮庁で使用されているものと同じ型だった。
御鏡は三人に使い方を説明した。
右腰にトランシーバーを装着しながら、直輝は父親のことを思い出していた。
そして帯刀ホルダーに祓い刀“菖蒲”を差して感触を確かめた。
複雑な思い出が入り混じる。
(……いや、今は集中だ)
準備を整えた直輝たちは、小学校の校庭へと足を踏み入れた。
はずだったが、校舎の二階の廊下にいる。
直輝たちは驚き困惑した。
「僕たちは何で廊下にいるんだ!?」
「わ、私たちは校門から入ったよね?」
「……これは、どうなっているんでしょうか?」
御鏡は落ち着いた様子で言った。
「落ち着け。これは “鬼隠し”という鬼の結界術だ。侵入者避けの転移型迷路になっている」
「そんな! どうすれば……」
「大丈夫だ。ここは俺に任せろ」
御鏡は表鏡にして柏手を打ち、
「掛けまくも
熊野の神使 導きの神たる
導きの神に助力を願い、自分に神の一部を降ろして神通力を行使する。
御鏡は神気に満ちた瞳で廊下を進んだ。
――
日本式シャーマン術の通称。
神霊の一部を身に宿して神の
柏手を打ち、その神様への祈祷や
――
神力を術者に宿して周囲の空間や道筋を把握して知ることが出来る。
――――――――
◆ ◇ ◆
ボケ担当にされた二人とツッコミ担当が三人は体育館裏にいた。
「なあ、蓮にツッコミを入れてやれよ」
彼がさっきまでいじめていたクラスメイトに言った。
「そしたら、ボケ担当からツッコミ担当にしてやるよ」
「良かったじゃん」
「い、いやぁ……でも」
迷うクラスメイトの尻を蹴り上げた。
「おっと、足が滑った。そこにサッカーボールがあったから、つい蹴ったよ」
「それサッカーボールじゃないからっ! ケツだから!」
笑いながら彼は手の甲で、とぼけた仲間の胸を軽く打つ。
番組でやっていた本来のツッコミだった。
蓮はいじめの空気に小鬼の姿を垣間見ていた。
黒い空気が彼に囁く。
――やり方は分かっただろウ? 足でなくてもいいけどナ。
「やり方は分かっただろう? 足でなくてもいいけどな」
自分の言葉として、そのまま口を動かした。
迫られたクラスメイトは葛藤していた。
――新条君を蹴るだけで、ボクはいじめから助かル。
(……でも、蹴りたくないし、良くなしなぁ)
朝、莉緒が「助けに行く」と言っていたことに心から
(莉緒姉ちゃん、早く来て!)
縋る想いを見透かしたかのように彼は不意に言った。
「もしかして、また姉ちゃんが来るのを待っているのか? そうはいかないヨ」
ハッとして彼は自分の口を押えると同時に、突如として辺りに
そして彼らの後ろに背丈が大人ぐらいの黒い鬼が立っていた。
一歩前に踏み出た鬼は小枝をパキッと踏みつけ音を鳴らした。
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