第22話 疑心の黒鬼4


 新条しんじょう莉緒りおは弟の蓮の様子が最近おかしいと不審に思っていた。


 莉緒は高校の授業を終えて小学校へ向かうと、グランドに接した校門から様子を見て莉緒はショックを受けた。


 そこにはグランドで同級生たちから悪ふざけを装ったいじめを受けている蓮がいた。


 校舎からチラリと見た教師は職員室へ向かう。


 助けが来ないことに絶望して蓮は酷く怯えた。


 その様子を周りの子供たちが面白がっていた。


「蓮の怯え方が本当に面白いよな」


「ああ、真に迫っているっていうのかな」


 リーダー格の子供、彼に賛同して二人が笑う。


 いじめ行為で仲間意識を強め、強い自分たちという優越感を共有しているようだった。


(……蓮がいじめを受けていた。だから、最近の様子がおかしかったのね)


 状況を理解した莉緒はその子供たちの周囲に黒い小鬼、明かりが灯る職員室に黒鬼を視た。


 右手首に付けている勾玉のお守りを掴んで考える。


(まだ見習いの私が祓えるかしら? ……小鬼ならともかく、鬼は自信がない。今は蓮を連れて帰るしかない。気取られないようにしないと……)


 決意して校門から声を掛けた。


「蓮! 帰るわよ!」


「姉ちゃん!?」


 莉緒の声に子供たちが尻込みした。


 蓮に歩み寄って手を差し出し、倒れていた蓮の手を掴んで起こす。


 重なる二人の影から黒い小鬼がひっそりと這い出る。


 すると、莉緒の右横を黒い刀袋が振り下ろされた。


 子供たちから見ると、そこには何もない場所でただ振り下ろされただけだった。


 しかし莉緒には小鬼が叩き飛ばされたのが視えた。


 振り返った莉緒の右後ろに同じ学校の男子生徒がいた。


 その横に赤い刀袋を掛けた女子生徒。


(私が気付いていない小鬼を叩いた? ……もしかして退魔師)


 その男子生徒が子供たちに聞いた。


「あー、最近。僕の弟がいじめられているらしいんだけど、君たち知らないかな?」


 明らかにたどたどしい言い方で嘘と分かる。


 いじめていた子供たちは、嫌な顔をして門へ走り出した。


「知らねーよ! 不審者!」


 彼に小鬼が憑いて職員室の黒鬼はそのまま姿を消した。


 その様子を視た男子生徒は肩に刀袋を掛け、莉緒と蓮へ言った。


「僕らも帰ろう」


 莉緒は蓮の手を引いて校門を出たとき、立ち止まって二人に頭を下げた。


「ありがとうございました。私は一年一組の新条莉緒です」


「僕は三組の稲葉直輝」


「私は四組の武宮結花です」


(武宮! ……やっぱり)


 そして莉緒は確認した。


「さっき……叩きましたね。二人は武宮家の関係者ですか?」


 蓮は小鬼を叩き飛ばした稲葉という男子生徒を見た。


 直輝と結花は顔を見合わせてから頷くと、莉緒は二人を頼った。


「稲葉さん、武宮さん。お願いがあります」



◆   ◇   ◆



 直輝たちは靖次や御鏡に連絡を入れた後、蓮を自宅へ送ってから武宮家の道場へ案内した。


 道場に置いてある座布団を配置し、靖次や御鏡を含めて五人が腰を下ろす。


 莉緒は靖次と御鏡大して頭を下げて、改めて自己紹介した。


 彼女は長めの黒髪はストレートと色白の肌、化粧や装飾がない容姿から清楚に感じる。


 女子にしては身長があり、実際より少し年上に見えた。


 赤い紐が右の袖口から時々見え、それには白玉に挟まれた緑青(ろくしょう)色の小さい勾玉があった。


 莉緒は靖次へ背筋を正して話を始めた。


「退魔師の名家である武宮家へ依頼しに参りました」


「ほう?」


「一ヶ月ぐらい前、弟の蓮が“教室が嫌な空気になった”と言っていました。おそらく、それからいじめが始まったようで擦り傷や切り傷が多くなりました。


 学校で使うノートなどの傷みが激しく、また文房具が無くなるも時々あります。そのことを不審に思った頃には、弟の蓮から笑顔が消え暗い表情で学校へ通うようになっていました。


 その変化が気になって放課後に小学校へ向かうと、グランドで同級生たちから悪ふざけを装ったいじめを受けている蓮がいました。


 ショックを受けましたが、その子供たちの中に黒い鬼と小鬼が視えました」


涙目になった莉緒は少し深呼吸し、気持ちを落ち着けから言った。


「その鬼たちの討伐を手伝ってほしいのです」

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