第20話 疑心の黒鬼2

 いつものようにホームルームが始まった。


 僕らが席に着くと、先生が出席を取り始める。


「――新条しんじょうれん


「はい」


「よし、次――」


 僕は返事をした。


 いつものように授業が始まって終わっていく。


 だけど、休憩時間の教室はいつもと違って“嫌な空気”だった。


 クラスメイトの男子二人が少し揉めていたようだけど、いつの間にかいじめに発展した。


 夏休みが明けて二週間ぐらい過ぎたころだったと思う。


 いじめの中心は男子三人、僕を含めてみんなは見て見ない振り。


 今日も彼らが思いついたことをやり始めた。


「なんだ、寝癖が立っているぜ? オレが直してやるよ」


 頭を叩く。


「――やめてよ」


「分かってないなぁ。そこはボケて誘うところだろう?」


「そうそう、誘いボケ。昨日のお笑い番組だよ」


「おいしいところを勿体もったいないな。もう一回いくか」


 笑いながら番組の真似事でいじめをしている。


 暴力と呼ばれないぐらい、悪ふざけの範囲で留めている。


 これをどうしたらいいのか、僕は分からない。


 ただ僕には視えていることがあった。


(……やっぱり、黒い何かがいる)


 時々、彼らの周囲に薄い影のような“黒い何か”がいるように視える。


 僕の視線に気づいて三人が近づいて来た。


 黒い何かと一瞬波長が合って、それが分かった。


 黒い小鬼だ。


「なんだよ、新条? 仲間に入りたいのか?」


「い、いや、鬼が――うわっ!」


 僕は肩を押されて、座っていた椅子ごと後ろに倒れた。


「……人を鬼だってよ。新条はお笑いのセンスがあるなぁ」


「ははっ、そうだな。本気で怯えた顔していたぜ。面白いな、新条は!」


「よし、仲間に入れてやるよ。ボケ担当側で、な」


 三人は笑った。


 周りのクラスメイトを見ても小鬼が視えた人はいない。


 影のように視える黒い小鬼が僕に“僕の声”で囁いた。


――ああ、これでボクもイジメられる。


 僕の中に陰鬱いんうつな感情が生まれた。



◆   ◇   ◆



 二学期が始まり、黒色の学ランの制服を着て直輝は神城かみしろ高校へ登校した。


 襟に付ける校章の色は赤色で、一年生であることを表していた。


 女子は紺色のセーラー服、赤色のスカーフを着用してスカーフの色が学年を表している。


 教室で久しぶりに会う友達から落雷の件で励ましを受けた。


 父親が亡くなっているいから、周りから不快と思われるような質問は無かった。


 それでも落雷に関連する感想や質問があって、最後は不運として通した。


 同じころに母親の言美も職場へ復帰したが、警備指導係へ異動することになった。

 直輝は不満を口にしたが、言美は前向きに捉えていた。


「強い陰の気に当てられて、霊障の発作が起きると大変だから仕方ないわ。その代わり、定時に帰れるから稽古を見てあげられるし、夕食は作ってあげられるわよ」


「毎日、母さんの夕食がたべられるなら、それは悪くないな」


 そう答えて、直輝も前向きに考えた。


 直輝は自分で決めた祓い刀のことを母親に伝えると受け入れた。


 二人は輝之がいなくなった生活を重ね、四十九日の法要と納骨を終えて神棚を開放した。


 仏壇には正式な位牌が置かれ、遺影と共に輝之の帯刀ホルダーと木刀が供えられた。


 私服も衣替えを終えた十月の下旬、武宮家から連絡があった。


 帰宅した直後の直輝は学生制服のまま刀袋を担いで道場へと向かった。

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