第17話 赤い樹5

 盾の影から赤い樹を見て、二人が困ったという表情で相談していた。


「これじゃあ、動けない上に切りがないわよ」


「せめて刀が届くところまで行かないと」


「それでも、あの太い幹を両断することは出来そうにないし……」


「よし、核の位置を直接狙おう。まずは僕が力一杯に斬りつけて横を抜ける。それで結花が同じところを斬れば、核がありそうな所に届くんじゃないか?」


「……それでも核の位置が分からないと、斬り損になるわね」


「……なら、御鏡さんとも相談しよう」


 直輝は大きな声で御鏡に尋ねた。


「御鏡さん! あの妖魔の核の位置って、分かりませんか?」


「ああ、分かるよ。稲葉の腰の高さにある。やるなら道を作るぞ」


「はい、やってみます!」


 御鏡は頷き、水行呪符を取り出して詠唱する。


「渦巻く水球となって空へ舞え、急急如律令!」


 さっき飛ばした鉄の杭を金行の気へ分解、呪符を通して水に変換する。


 その水は御鏡のイメージで目の前で球体となり、洗濯機のような水流が発生した。


 そこへ小瓶に入った少ない清め塩を投入する。


 御鏡は怒られそうだと思いながら、塩水の水球を作り出した。


(普通に撒いたら足りないが、これなら一回ぐらいは何とかなるだろう。……塩害にならない量だと思うが、場所を選ばないとやれない方法だな)


 その水球を赤い樹の近くの空中へ飛ばして散布した。


 塩水の雨が赤い樹の根本まで降り注ぎ、御鏡は略式祝詞のりとを唱えた。


 赤い樹は細かく震え枝の針が止まると、枝が普通へ戻った。


 さらに根を縮め戻して、その場所からゆっくりと後退する。


 視ていた御鏡は直輝たちに合図する。


「根が引いた、今だ!」


 二人が赤い樹に対して相剋となる脇構えで駆け出し、直輝が力一杯に斬り払う。


「おおおぉぉぉぉっ!」


 出来るだけ深く削ぎ取る感じで振り抜き横へ身を躱す。


 赤い樹が葉を揺らし悶えて、黒赤い煙が噴き出す。


 まだ核は見えない。

 

 塩水が降った範囲から抜けた直輝に枝の槍が降ってくる。


 直輝は避けながら結花へ叫ぶ。


「結花、頼んだっ!」


 結花が続いて、その傷を狙って斬り払う。


「はあああぁぁぁぁぁっ!」


 振り抜くと核である禍津日まがつひが見えた。


 しかし赤い樹は生気を吸収して回復を始め、さらに枝の槍が結花を狙う。


 結花は斬った反動を付け、構えを反転させた。


 脇突き構えからバネが反発するように、素早く大きく踏み込んで叫ぶ。


「させないわよ! 白虎祓絶はらえだちっ!!」


 返しのニノ太刀は姿勢が低い片手突き。


 陽の気と金行の気を纏った祓い刀の刃先が核を刺し貫く。


 短いポニーテールが大きく揺れ、その先が枝の槍に触れる。


 枝の槍はピタリと動きを止めていた。



――布津神陰流 五行の構え――


 構えは五行に関連する。


 上段:火行、中段:水行、下段:土行、八相:木行、脇構え:金行


 また八相の構えは陰、脇構えは陽を宿す。


――――――――



 赤い樹は黒紅色くろべにいろの煙となって霧散し、核の禍津日まがつひも光の欠片となって散った。


 地中に張った根も消える。


 辺りを視た御鏡は異常がないことを確認して結界を解いた。


 そして自販機で冷たい飲み物を購入すると、まだ息が荒い二人に声を掛けた。


「お疲れ、討伐完了だ」


「「はいっ!」」


 いい返事聞いた御鏡は二人に購入した飲み物を手渡した。

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