第13話 赤い樹1
――ピイッ! ピイッ! ピイッ! ピイーッ!
トラックを誘導するホイッスルの音が響く。
丘陵の斜面で新しいマンションの建設が始まった。
日が落ちる頃でも搬入は続いた。
外国人労働者がトラックから建設資材を降ろす。
不法投棄のゴミを避けて、区分けした場所へ資材を運ぶ。
作業員が草むらにあると知らず、置いてあったものに資材を強く当てて壊してしまった。
それはお地蔵様だった。
首が取れ、顔は半分に割れていた。
浅黒い肌の外国人労働者たちが集まって、自国の言葉で話す。
「ど、どうする? 置物を壊したよ」
「気にするな。こんなところに置いてあるんだ。ゴミだろう」
「そうだな。もっと奥の草むらに捨てておこう。たぶん、後でまとめて処分するだろうさ」
トラックから降りた高齢の日本人が遠くから様子を見る。
そして自販機で缶コーヒーを購入しながら、日本語で声を掛けた。
「どうした? なんかあったのか?」
「ハイ。置物のゴミ、ありました」
日本語を辛うじて話せるが、正確な情報ではなかった。
「ああ、そうか。今は搬入が先だ。奥へ移動しておいてくれ」
ゴミの一つと思った現場監督の日本人は、ゴミを集め置いている場所を指で示して伝えた。
「ハイ」と答えた作業員は壊した同僚に笑った。
「ホラな。さっさとこの置物を移動させよう」
「ああ、悪いな」
二人で壊れたお地蔵様を奥の茂みへ放り投げた。
風が吹き、木々が騒めきを起こす。
木の影が重なり、暗い地面で赤いものが動いた。
お地蔵様を放り投げた作業員は何かを見た気がした。
振り返って同僚に確認する。
「なあ、あそこにある赤いのは何だろうな?」
「……夕日でゴミとか、樹が赤く見えただけだろう」
見間違えた同僚の肩を叩いて、次のトラックへ歩き出した。
違う言葉。
違う文化や風習。
指導不足、育成不足の現状。
今の日本では、よくあることだった。
◆ ◇ ◆
直輝は午前中に言美がいる居間で宿題を進め、午後から武宮の道場で体を作った。
靖次や結花が相手となり、体力を入院前まで戻した。
夜は母親から陰陽師対策を学ぶことにした。
言美はあの鬼を討伐するために必要と考え、直輝に陰陽道の基礎を叩き込む。
これを繰り返して続ける日々だったが、夏休みの終わり近くで連絡があった。
武宮家から直輝へ妖魔調査の依頼だった。
詳しくは道場で聞くことになり、支度を始める。
点けっぱなしのテレビはニュースが始まり、その場所が割と家の近くだと気付いた。
『――猛暑と言うより、酷暑と言うような日々が続いています。先日もマンションの工事現場で五名の方が熱中症と思われる症状で倒れ、近くの病院に搬送されました』
直輝は自分も気をつけようと思いながら、テレビを消して道場へ向かう。
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