第7話 鬼の陰陽師2

 式神は暗く雷鳴が鳴る空へ上がる。


――バチッ! バチッ!


 あの殺虫灯へ虫が突っ込んだような音がした。


 結界の衝突でキーホルダーが振動する。


 言美は八卦盤に霊力を注ぎ、結界の消耗を補う。


 夜烏よがらすはカア、カアと鳴いて結界の中を旋回する。


 鬼の陰陽師は結界を見鬼で視ながら、色々と考察した。


(対抗の式神を出してこなイ? いや、術式がないのダ。陰陽寮がなくなり、陰陽術が衰退していル。だが、この結界……大正むかしにも、その以前にもない術ダ。現在も術の開発はしていのカ。


 五行の気に変化はなイ。おそらく禍津日まがつひを持つ妖魔を留める結界でだろウ)


 鬼の陰陽師は面白く思い、挑発する。


八卦炉結界はっけろけっかいと言ったカ。差し詰めワタシは西遊記の孫悟空というところかナ? だが、孫悟空と同じくワタシからたん……いや、核を取り出すことは出来ないゾ」


 言美も挑発的に答えた。


「どうかしら? あなたは孫悟空ではないのだから」


 鬼はそれぞれを評価して考えた。


(祓い刀の使い手が二人、陰陽師が一人。だが、この結界と術が一番厄介ダ)


夜烏よがらす、そこのオンナを殺セッ!」


 分断させるために夜烏よがらすが言美へ襲い掛かる。


 態勢を立て直した輝之は直輝に指示する。


「直輝、母さんを守れ!」


「分かった!」


 輝之は正眼に構えて鬼へ、直輝は母親の元に向かう。


 言美は多少の切り傷を負ったが、身固めで守りに徹していた。


 駆けつけた直輝が夜烏よがらすの爪を刀で弾く。


 そして攻撃に転じると、夜烏よがらすはスッと離れる。


「……母さん、大丈夫?」


「大丈夫よ。それより、あれの動きを止めるから狙って斬りなさい」


 直輝は頷き、夜烏よがらすを警戒しながら構える。


 言美が呪符を取り出すと、夜烏よがらすが急降下して襲ってきた。


 直輝が相手をしている間に言美が金行呪符を使う。


「細かいつぶてとなって撃ち広がれ。急急如律令!」


 呪符によって周囲に転がる石や土が分解され、金行の気に変換される。


 金行の気は術者のイメージを言葉にした詠唱で具現化を安定させ、無数の小石を生成した。


 数回の散弾として夜烏よがらすへ撃ち放たれた。


 小石は夜烏よがらすを捉え、散弾の衝撃で動きが止まって地面へ落ちる。


 しかし大きく翼を広げて羽ばたき、落ちないように抵抗した。


 直輝はその瞬間を狙った。


 脇構えから踏み込み、気合の掛け声を発して斜めに切り上げた。


「はあああぁぁぁっ!!」


「ガアッ!」


 不気味な声を残して黒紅色くろべにいろの煙となって消える。


 また祓絶ちによって、核が封じられた呪符は灰になって散った。


――ドサッ!


 横から飛ばされた輝之が降ってきた。


 鬼の傍に二メートルぐらいの石の槍が、剣山のように地面から突き出している。


 二人から悲痛な声が上がるが、輝之が答えた。


「だ、だいじょうぶだ……」


 傷だらけになっても立ち上がって、輝之は祓い刀を構えて二人に言った。


「あの鬼は何かの目的でここに居る。そして、それは必ず人々に大きな不幸を呼ぶ。退魔師として絶対に祓い絶つぞ!」


 鬼の陰陽師が苛立ちながら、歩み寄って来る。


「しぶとイ。先に夜烏よがらすを討たれてしまったカ」


 輝之は直輝へ同じように視線を送り、鬼が動く瞬間――三人同時に行動を始めた。


 鬼は対象を絞れずに対応が一瞬遅れる。


 二人より先に言美は金行呪符を使う。


「石よ、足のかせとなれ! 急急如律令!」


 石の槍が呪符によって分解され、石膏の枷に変換して鬼の両足の膝下を固めた。


 鬼がうめく。


「くっ、足ガ……」


 足の動きを封じられて焦った鬼は防御に力を注いだ。

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