第6話 鬼の陰陽師1

 突然、男の全身を黒紅色くろべにいろの煙が生き物のように覆う。


 煙と共に衣服やバックなどは体へ取り込まれた。


 長髪は白髪に変わり、額には三本の角が生えた。


 肌色は退紅色あらべにいろに変化し、中肉中背の男の身長が二メートルを超えるに変貌する。


 衣服は漆黒色しっこくいろ狩衣かりぎぬ本紫色ほんむらさきいろ狩袴かりばかまという姿だ。


 煙が体へ収まると、大鬼は烏帽子えぼしのない陰陽師の姿になった。


 輝之は間合いを取り、刀を抜いて構える。


 直輝も驚きながら構え、見鬼を教えてくれた母親に確認した。


鉄紺色てつこんいろの青黒いオーラ! 少し前に視た時は人の蜜柑色みかんいろだったのに……」


「これが“人に化ける”ってことよ。半端な妖魔なら見鬼で見抜けるけど、人の社会に溶け込んだ力のある妖魔は簡単に見抜けない。覚えておきなさい」


 言美は厳しい表情で教えた。


 そしてポケットにある携帯を手で探し、ストラップに付いた勾玉と八卦盤はっけばんを指で確認してから呪符を取り出した。

 

 輝之は直輝に短く視線を送った。


 鬼の陰陽師も袖から呪符を取り出す――その動きに合わせて、三人も動く。


 気合を乗せて輝之が斬りかかる。


「……おおっ!」


 鬼は足を踏み、後退しながら伸びた硬い爪で弾き流す。


 反対側からワンテンポ遅れて直輝も斬り込む。


 隙を与えないように二人で何度か斬りかかり、鬼を追い詰める。


 鬼は封神呪符を口にくわえた。


 二人の斬撃を躱しては弾き、受け流し、輝之と直輝の刀を腕で受け止めた。


 しかし祓い刀の刃は鬼の腕を斬り落とせず、食い込まずに衣服で止まる。


 鬼はニヤリと笑い、鋭い犬歯が見えた。


 刀伝いで手から術による障壁を感じ取り、直輝は困惑した。


「これは身固みがため! 印や詠唱なしに、どうやって!?」


 直輝は鬼の足さばきが独特な摺足すりあしなのを思い出してハッとする。


 母親に知識として教えられたによる術の行使だと気付いた。



――身固みがため――


 身固めは陰陽術の護身法の一つで禹歩、詠唱、印のいずれかで発動する。


 呪詛、術や物理に対して自身の防御を一時的に高める。


――――


 は地面を特定の順に踏むことで印の代用にする技。


 足の踏み方は独特で普通に二歩、または地面をって一歩踏むことを混ぜて行う。


 北斗七星を中央とした八卦のこうに基づいて行使している。


――――――――



 言美は九字護身法の印を終えて霊力を高めた。


 そして中央に八角形が描かれた呪符を持って詠唱する。


先天せんてん後天こうてん、八卦の壁! 陰陽いんよう狭間はざまにて蓋を閉ざす……八卦炉結界はっけろけっかい! 急急如律令!」


 地面と空に陰陽勾玉いんようまがたまを中心とした八卦が光の線で描かれた。


 それは魔法陣として展開される。


 八卦のこうの線が八方向の壁となって閉じると、光の線は消えて普通には見えなくなった。


 発動が終わると呪符は灰となった。


 小さい八卦盤キーホルダーが結界の保持を補助する。


 鬼の陰陽師は口の呪符を吹き放した。

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