鳥かご神社
天﨑 羅宇(あまさき らう)
鳥かご神社
突然神が見えた時、そのありがたみに手を合わせるだろう。僕だってそうする。信仰は絶対じゃない今でも「神頼み」って言葉が残ってるからね。
「あのー、聞こえてます?」
何を隠そう、僕は今、その神様とやらに監禁をされているのだ。神は足をバタバタさせ、退屈そうな顔をして社の外を見ている。僕は、神に冷たい視線を送って一言いった。
「ちょっと聞いていいかな」
神を正座させるというのはこう、信仰心のなさみたいなのが露呈するだろうがやむを得ない。ちょっと神様がふてくされてるが、この際どうでもいい。彼女の見た目が自分と年齢が近そうだから、こっちが罪悪感を覚えてくる。
「なんで監禁したのさ」
「……いやだって、ここ狭いし、退屈だし」
なんだろう。神様のクセに、妙に馴れ馴れしい気がする。もっと威厳あるもんじゃないの?こう、『お主に命ずる、そこで喉を掻っ切って死ぬがよい』……ってどんな神様なんだよ。でもまぁなんか高圧的なイメージなんだよ。
まぁ目の前の神様は高圧的ってより、なんかギャルみたいな絡みたくなさがあるけど。神様はここから助けて欲しいとは言っていたけど……。
「結界って切れないものなの?」
「いや、切れるが」
神様に対して手は出したくないが、思わず手が出るところだった。神にビンタなんてしようもんなら、時代が時代なら極刑ものだ。
「何故切らない……」
「ひとりじゃつまらんからな」
僕は言葉を失う。神様のくせにすごく独善的な、彼女(?)に。彼女は露知らず、鼻歌なんか歌ってる。
込み上げてきた感情があふれる寸前のことだった。彼女は僕のところまで歩き、僕の目をじっと見つめる。その碧眼のほの暗さは、夜の海によく似ている。
突然見せたそんな表情に引き込まれそうになるが、ダメだ。彼女は僕を監禁した。
「わかって欲しいなど思わん、それが独りよがりなんてとうに気づいてる」
「なら、なん「それは……それはお前にだな……」
重ねてきた上に、彼女は口ごもる。神を名乗るわりには人間くさい一面があった。どこかの神話で見た神も、人間くさかったっけ。僕は彼女の次に言うことがなぜだかわかった。神の前で神託を得たような気持ちで、僕はその言葉を放つ。
「一緒にいて欲しいんだ……」
「一緒にいて欲しいからぁ!?」
2人の声が狭い社に響いた。彼女はちらっとこっちを見て、顔を青くし逃げようとした。全力で駆けだした数秒後に彼女は、壁に激突し目を回していた。
僕も放ったあと、半ば放心状態だった。彼女の真意が未だに読めない。何がそこまで彼女を駆り立てたのだろう。
「んで、そろそろ話して欲しいんだけど」
と聞いても、彼女は首を横に振る。まともに答える気はないようだ。僕はため息をついて、彼女に歩みよる。それが、僕としての解答だった。
うずくまる彼女は、小さな声で呟いた。なんとか聞き取れるくらいの、細い声で。
「……貴方は、私の唯一の人、その……生まれ変わり……だから、だから……」
―喪いたくない、か。
その言葉に自然と納得する自分がいた。何ひとつ証拠はないけど、彼女だって嘘をついていない。
僕は、彼女を見つめた。涙が溢れそうになり瞳が潤む。深い哀しみではなく、やっとのことで生き別れに出逢えたような希望に満ちた目。
「……わかったよ。まず、あんたの名前は」
監禁されていたという出来事のせいで、彼女の名前は知らない。神様の名を知らないというのも、非常識な気はするけれど。
「エナ……」
力なく、エナは呟いた。泣き疲れてしまったのだろう。
僕もなんだか、彼女に構うことで疲れ果て、眠りについてしまった。
◈◈◈
『人間如きに何が出来る』
―やってみせる、たとえ神相手であろうとな。
私はエルナに刀を突き立てた。
鳥かご神社 天﨑 羅宇(あまさき らう) @blackinkcrow
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