第十一章 黄金の太陽 〜後編〜

 急遽、なぜか現れた金の騎士と共闘することになった俺たちは、ブランカー三体との戦闘に入っていた。

「……っ!」

 飛んでくるような速さで迫ってくる薙刀をギリギリのタイミングで弾くと、右から銃声。と、それとほぼ同時に金の騎士が俺の右に躍り出て銃弾を弾く。左から飛びかかってくる拳を左の手のひらで受け止めると、すかさず右手の剣を思いっきり引絞って剣に赤い光が灯る。高威力の重い一撃【アルビレオ】が、溜めを瞬時に終わらせて準備を完了すると、轟音が鳴り始める。そして、俺の右手が霞むほどの速度で突き出される。が、相手が身体を右(俺から見れば左)に傾けて、ギリギリのところで躱す。俺はスキル後の硬直時間があって動けない。拳が迫る瞬間に、俺の身体が未知の力で後ろに引っ張られて拳を避ける。感覚的な予想だが恐らくはレナの重力魔法と考えられる。俺の左からバックステップして来たのは金の騎士。その向こうには同じくバックステップ直後の薙刀使い。


 ここで膠着状態になってしまった。両者の攻撃が見事に相殺しあって、何も進展しない。その時、突然ガラスの割れる音がした。三階の窓を突き破ったのは新たなブランカー。翼の生えたそのブランカーは、一人だけ魔力の力が桁違いに強い。

「おい、お前ら2人は上にいけ」

「わかった。感謝するぞ」

そう言って右の2人が階段へと走って行く。

「行かせてたまるか!」

 俺は電龍刀を握りしめてダッシュする。が、その前に翼のブランカーが一瞬で移動してくる。拳を突き出してくる。俺はギリギリのところでブレーキをかけながら剣でガードする。俺は奴らを追うことが出来ない。が、反動で飛ばされる俺の後ろから黒い影が2人を飛び越えて階段へと向かう。


 魔法による高速飛行術は、狭い空間では極力使いたくない魔法である。が、レナならこの通路内でも繊細な操作が可能だ。ブランカーは自身の攻撃をガードされたことにより、少ないながらも反動を食らっていてレナを追うことが出来ない。

「なるほど」

 金の騎士がつぶやく。

 俺とレナの計算通りだ。ここで上を追うのは俺ではなくレナが追うべきだ。まぁ、その理由もすぐわかるはずだ。



「俺たちはここで遊ぼうぜ」

「魔法使い一人で行かせるとは面白い奴らだ」




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 ブランカー2体が先に上がって行ったところを追っていくと、国王の前に衛兵数人が立ちはだかっている。が、おそらく戦力的には遥かに低いだろう。高速飛行でブランカーの上を通り過ぎると、間に着地する。

「魔法使い一人で俺たちに勝てると思うなよ」

「一人?」

 そう返すと、私は魔法陣を同時に2つ起動する。

 【魔力体構築魔法】。魔力体は、その名の通り、魔力で生成したゴーレムのこと。自身の意思で動く身体だ。魔力体が2つ同時に生成終了して、2人の剣士が目の前に出てくる。

 一人は黒いフード付きのロングコート。その左手には簡素な黒い剣。

 一人は白いマント付きの軽装アーマー。その右手には華美な銀の剣。

 2人が同時に剣を構えると、その2人の放つ剣気に少しすくんだブランカー達に向けて、言い放つ。

「いっくよー!」

 その声と同時に2人が地面を蹴り出した。



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「らあぁっ!」

 片手剣用ソードスキル【グランドブレイブ】が、唸りを上げながら、ブランカーの方へと迫る。剣筋は寸分違わずに、相手の喉元へと迫る。しかし迫った必殺の刃がそこへと命中する前に刃の速度が落ちていく。

 この感覚は魔法の【スロウ】だ。その瞬間に剣の範囲から逃れた銃使いが構えてトリガーを引く。が、俺は【スロウ】を無視して加速すると、銃弾を右手の剣で弾く。そのまま加速しながら急接近して高速発動した【グレイシャーエッジ】が、水色の光を放ちながら敵の身体をX字に斬り裂き、その交錯点に猛烈な突きを放つ。凍てつくような光を抱えた剣先が、見事に三撃とも鮮やかに決まり、ブランカーが吹き飛ぶ。

「…何をした」

 もう一人、翼のブランカーが俺を見つめて口を開く。

「…確かにお前はスロウの影響下にあったはずだ」

「…俺はこの地上で最速だ。それはブランカーにも譲らない」

「……ならば俺と競争でもしてみるか」

 そう言いながら翼を小さくたたむブランカーに対して、俺が低姿勢で構える。横にいた金の騎士が、銃使いに向けて剣を向ける。よろよろと立ち上がった相手に対して、一気に畳み掛けに行く。

 それを横目で見てから、俺も地面を蹴り出す。

 雷属性の最大の長所は速度だ。その速度で相手を振り切って、翻弄しながら戦うのが得意分野。ダッシュで加速して、右手の剣を手首の中でくるりと回して逆手持ちに変える。片手剣でスピードを出すには逆手持ちの方が素早い動きができる。刃と化した相手の腕と、俺の剣が何度もぶつかり合いながら火花を散らす。やはりというべきか、ブランカーの筋力は異常なほど強く、バックステップとサイドステップを繰り返しながら勢いを殺さないと、同等に撃ち合うことが出来ない。

 それに加えて驚いたのは奴のスピード。俺は既に普通の属性使いでは出せない速度を出し続けているが、それでも俺の攻撃はことごとく防がれる。

「…ッ!」

 相手がガードした瞬間を見計らって、俺は体重を右手にすべてかけていく。どんどんと前倒しになる俺の身体は奴の腕の上で滑る黒剣に支えられ、全力で蹴り出した左足の力によって加速すると、身体は上下逆になる。俺はそこで剣を再び持ち変えると、身体の回転で生まれた力をすべて使うように、回転斬りを放つ。そのまま頭を狙うような器用な真似は出来なかったが、肩口に鋭い角度で命中した斬撃はかなりの威力を有したらしく、その巨体を数メートル後退させる。着地して、金の騎士を見やると、数秒前に取り巻きのブランカーを倒したところだったらしい。

「上を、頼む」

「了解だ。任せろ」

 金の騎士は短いやり取りをすると、駆けていく。俺はその方向を見ていないが、足音の方向的に階段へと走り込んだらしい。


「そうか、お前が伝説の剣士か……」

「……ブランカー内でも有名なのは初耳だな」


 そんな皮肉を言いながら、俺は再び地面を全力で蹴り出した。



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 相手にしているブランカー2体はさほど強くは無いらしい。前衛を作って魔法弾による波状攻撃をかけていると、簡単にダウンする。その隙に魔力を溜めた威力重視の高レベル魔法を撃ち込む。再び立ち上がられると、次は前衛の出番。なんの見どころも無い一方的な戦闘だ。相手2人が限界を見せ始めた頃に、階段の方から足音がする。増援が来るなら。と、魔力体を片方消去して、そこに漂った魔力(魔力体は魔力の塊なので、それを動かす”核”である魔法を停止すると、単なる空間魔力に戻る。)に火属性を与えてそのまま撃ち出す。空間魔力を使った魔法は普段なら使わないが、放出された魔力をそのまま放置にするほうがもったいない気がする。ただの気持ちの問題だ。

 しかし、恐れていたことは杞憂だったらしく、上に登ってきたのは金の騎士だった。金の騎士は素早く片手剣を構えると、ブランカー2体にソードスキルを撃つ。

 かなり上位の属性使いになると、ソードスキルに属性を乗せて強化して撃つことがある。金の騎士はその右手に持つ黄金の剣に赤い炎を灯らせながら2連撃の斬撃を繰り出す。が、そのあとに驚く戦いを見せる。なんと、先程炎を纏った剣から、今度は風を発生させながら高速の三連突きを放ったのだ。見ると、柄にはめられた大きな宝石が、属性を纏うたびにそれをイメージする色に光っている。つまり複数属性使っているのは武器の特性か。

 昔、聞いたことがある。どこかの武器マニアが言っていた伝説の剣。【聖剣エクスカリバー】。その武器の特性は、複数属性の所持。まさか、いやおそらくあの剣がエクスカリバーだろう。素早く2体のブランカーを仕留めた金の騎士が、振り返るようにこちらを向く。それと同時に、結界を解除すると、金の騎士が歩み寄ってくる。その鎧に例を言うために口を開こうとした瞬間に、階下から轟音が響いてくる。

 金の騎士と目が合うと、すぐさま下へと走る。後ろから数人の足音がするのはカリバーだろう。心配というのもあるだろうが、その判断は確かに間違っていない。私たちと一緒にいた方が数倍安全だ。

 私が、下の階に下りると、そこには翼を生やしたブランカーが立っているその奥に、うつ伏せに倒れている黒いロングコート。

 その体は呼吸によって上下しているため、まだ生きていることだけは確かだ。となれば、恐らく。


「……麻痺状態ね……」


 麻痺状態とは面倒くさいことをしてくれたものだ。魔法を駆使しても、即座にあの状態を回復する手段はない。そうならばここにいるメンバーで奴と戦わなければいけないが、いくら金の騎士でも、恐らく即座に奴を倒せるわけではないだろう。いわば、今人質を取られている状態でもある。間に立っているのはそういう狙いがあるらしい。下手に動けないことで歯噛みしていると、それを感じ取ったかのように、ブランカーが話しかけてくる。


「交換条件といこうじゃないか。夢想の魔女よ、そこの国王の首を取れ。それを見届ければ俺はこの場を離れる。あとは好きにすればいい」

「そんな要求飲めるわけが……!」

「ならば、ここで一発ぶち込んでやろうか?」

 おそらく大技を隠し持っているのだろう。ここでそんなことをされれば、国王とゼクルだけでなく、この場にいるメンバー全員を巻き込むことになるだろう。そんなことになれば、ここまで急行してきた意味がない。しかし要求をのむことも本末転倒であることに変わりない。どうすればいいのか、答えが出せずに相手を睨みつける。


 金属質の体に、似合わぬ翼。身体中を分厚い筋肉が包み込んでおり、その後ろにはユラリと立ち上がる人影。




「……え?」

「…?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺は立ち上がると、鞘に剣を収めた状態で構える。わかりやすく伝えるとするなら、いわゆる抜刀術の構えだ。その状態で腰を落とし、左足を下げていく。刃が鞘の中にあるにも関わらず、剣は光り出し、鞘ごと純然な白い光に包まれる。構えた時点であふれ出した光は、ブランカーにこちらの存在を認知させたが、それはすでにスキルが動き出した後だった。


 ―――片手剣用抜刀スキル【エクセリオン】。


 抜刀したまま超加速すると、人間では目視不可能な速度で距離を詰めて神速の抜刀斬り上げ。鮮やかな光跡を描いて動いた剣先は、いとも簡単にブランカーの体を切り裂き、通り抜ける。強すぎる加速のせいで一瞬、宙に浮いていた足が地面につくのと同時に急制動をかけると同時に、剣を右手に下げた直立の状態に体制を整える。

「なッ…!?」

 右横腹から鮮血を出しながらよろめくブランカー。その傷をかばいながら、話かけてくる。

「……なぜ動ける…!?それに、今の技は!?」

「……俺は雷属性使い。身体を伝う運動神経を流れる信号を自分から作るぐらいのことはできる」

 そういいながら振り返る。その顔は驚愕に包まれている。

「……そして、今の技はエクセリオン。俺の尊敬する剣士の得意技だ」

 そういいながら、再び剣を構える。奴はまだ動ける。そして、俺も。

「運動神経を無理やり稼働させているなら、そこまで無茶はできんだろう」

 俺の横に金の騎士が並ぶ。ともに剣を構えて、その後ろにレナが来る。

 エクスカリバー。太陽と称えられる、その流麗なツルギに、赤い光が灯るのを確認すると、俺も右手の剣を引き絞る。右半身を後ろへと移動させながら、体重は前へ。


 金色の剣に灯る赤色の光。四連撃技・グランドブレイブ

 黒色の剣に灯る青色の光。重単発技・アルビレオ


 その二つの剣技が放たれる少し前に、攻撃力強化が二人にかかり。

 金の騎士が前へと飛び、俺が空中へと身を躍らせる。先に動きだしたエクスカリバーの連撃、最後の一撃と共に、自身の力をすべて乗せた一撃を一気に前方へと撃ちだし。


 轟音と共に、奴の体を弾き飛ばした。奴はコアブレイクの前兆である光を出しながら、自分で割った窓を通って階下へと落ちて行った。



「………やった…!」

 後ろでレナが小さくつぶやく。そのこと場が伝染するように、一気に勝利ムードが立ち込める。金の騎士も兜の下で安堵した雰囲気を漂わせる。細かいことは後にして、俺も力を抜こうと考えたときにふと思い出した。

 レナは気づいていて振舞っているとは思うが、国王たちは気づいていない、『味方のブランカー』の存在。それを伝えるために俺は立ち上がってカリバーの目の前まで移動した。

 俺の言葉ではなく、実際にその場にいる二人の存在が、先ほど植え付けられた先入観を、少しでも和らげることが出来るなら。


 まだ、未来は信じることが出来る。

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