第十一章 黄金の太陽 〜前編〜
俺はずっと昔から心に決めていたことがある。それは、仲間のことを信じること。俺たちは、一心同体ではない。同一存在でもないし、兄弟でもない。
俺たちは、ただの仲間。俺たちは、ただの友達。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
話があると、レナの魔法研究室に飛ばされたのは数分前だ。俺とレナは今、向かいあって椅子に座っている。別に堅苦しい雰囲気ではなくて、どちらかといえば和やかな雰囲気だ。
「お願いってなに?」
「ぜクルの剣に魔力回路を組ませてほしいんだ」
それはまた。
「俺の魔力回路じゃできないこと?」
「…というよりかは、保険のため」
「……俺じゃなくて、武器に直接干渉できる方がいいってこと?」
レナが黙って頷く。なるほどおそらく武器が奪われた時のことを考えているらしい。俺が2回も襲われていたらそういう考えに至るのも変な話じゃない。俺が2回とも気づけていないことからも、その考えは正しいように思う。その考えには全面的に賛成だ。が、それとは別の話で、あの銃を持った何者かは、俺の敵ではない気がする。
根拠として、2回とも、俺の足を止めるのが目的であることが考えられる。銃を突きつけて、速攻撃つわけでもなく、また何かで脅すわけでも無い。ただ黙っている。そして、その直後に近くで事件が起こる。それは本来は俺に被害があるはずだった事件だ。
今度あったら、その事実を確かめる。おそらく奴は、俺が事件に巻き込まれる行動をしなければ、あのトリガーを引かない。
「…ねぇ、聞いてる?」
「……聞いてる。でもそれ、俺の剣全部にやるの?」
「そんなわけ無いじゃん。一番狙われそうな武器。つまりは、君の主武器にやるんだよ」
俺がレナの家を出たのは翌朝だった。先に言っておくがなんにもない。というか、レナは一晩中起きていたらしいし、俺はレナに投げつけられた寝袋で寝させられた。扱いひどくないか?ブチキレそうなんだが?
と言った具合で今期最悪の朝を迎え、今、やっとこさ自身の家へと向かっているわけである。が、何やら行く先に不穏な人影を見つける。一人や2人では無い。数十人もたかって一対何をしているのか、手元をよく見てみるとカメラ。俺の家付近で誰かやらかしたのか。はた迷惑なやつだ。
……………………ん?
あー、あそこ俺の家じゃん。ふーん……。………。
「え?」
その声が聞こえたのか、俺の方へと勢い良く振り返った一人がこっちを指差しながらなにか叫んだ。瞬間、他の全員がこちらを向いて、俺の姿を確認するや否や一気に走って来る。呆然としてた俺だが、なんとか今の状況を理解すると、踵を返して逆方向へと全力ダッシュする。
「なんでだぁぁぁぁ!!!!!!!!」
理由は明白である。数年間表舞台に姿を現していなかった俺が、突然剣術大会に出るといったからだ。何が『はた迷惑』だ、完全に墓穴だよ!『誰かやらかした』?俺のことかよ!
「あっ、そうか」
俺は何故必死に走っていたのか。属性使いなんだから、武装して逃げればいいじゃん。待ってどこに逃げればいいんだ、ねぐらはバレてるぞ。どこへ行くべきだ?え?何が正解?模範解答とかそのへんに落ちてない?落第でいいからカンニングさせてくれないかな?頼むよ単位いらないからさ!あっそっか。レナがいるじゃん!頼もしい頼もしいぼくの味方!
「レナァァァ!?助けてぇぇ!?」
・ ・ ・
まさかの無言。あいつ昼夜逆転して寝てやがる!クソがよぉぉぉ!ああもう回避する方法が一つしか思いつかない!なんでこのスキルはこういうときにだけ輝くんだ!
道の角を曲がった瞬間に【光歪曲迷彩】を発動する。なんか最近これネタスキルになってる気がする。と考えていた時に、なぜか悲鳴が聞こえる。ぎょっとして慎重に周りを探ると、さっきの記者連中が悲鳴を上げているらしい。マジかよ…と思いながらも俺は急いで戻る。戻った先に見たのはブランカー2体。手加減やらなんやらをしている場合じゃ無い。そう考えた俺は、迷彩をしたまま愛剣を呼ぶ。電竜刀をそのまま掴んでから相手に刀用ソードスキル【扇一閃】を見舞う。範囲攻撃によって軽く後ろに押された2体が、目に見えない俺をにらみつけるので、そこで迷彩を解除し、電竜刀を放り投げる。迷彩をつけたままだと、一般人を巻き込みながらの攻撃を繰り返す可能性がある。迷彩を解除すれば、おそらく俺に狙いが行く。が。
「……【完全武装】」
2対一は正直かなりきつい。それに加えて、今はレナが爆睡中である。奴を叩き起こす手段が無い上に、そもそも気が向かないため、ここは俺一人で戦う他ない。となると、ブランカー2体と同等以上に戦う方法は、今のところ一つしか思いつかない。振り返ってこちらをにらみつけるブランカーと、後ろで呆然としている記者達に対して、それぞれ視線を送ってから、右手を横に伸ばす。
その手に飛来する白銀の剣。流麗な片手剣の柄からは、2本の棒が伸びている。片方はグリップ。そして、もう一つはレバー。平行に伸びた2本が放つ存在感は、その剣がただの剣では無いことを示している。
その剣を右手で握りしめながら、歩いていくと、ブランカーが、魔法弾を一気に放つ。赤と青の魔法弾が次々に俺のもとへと殺到する。回避はできない。後ろに記者がいる。そして、周囲に散ってから殺到する魔法弾には、防御も不可能であることは明白だ。それぞれの光芒を放ちながら、俺の元へと一斉に攻撃が迫る。
そして、数十回にも及ぶ爆発が大量の煙が俺の視界を覆う。俺はかすり傷一つ負っていない。そして、後ろの記者達も。
レジェンド武器・【勇者剣ガルバリオン】の特異性はレバーを押し込んでいる間、不可視の超耐久結界を貼ることだ。それは、俺迫る攻撃を防ぐことができる。しかし、結界の形状はドーム型。一定範囲内にいる味方や一般人を守ることもできる、非常に優秀な武器だ。記者達は驚きながら自分の身体を確かめている。
一度左手を離し、記者達に離れるように言うと、様子を伺っているらしいブランカーに剣先を向けながら話しかける。
「お前ら、一体何が目的だ。こんな街の中央に出てくるのはなぜだ」
「それを教える義理がどこにある」
「まぁ、そりゃそうだろうな。じゃあ質問を変えるよ」
「お前ら、人間を殺したいか?」
「……殺してなんの得がある」
「おっ…?そう来るか。……俺は君たちが敵対してないなら戦う意味は無いと思ってるんだけど。
俺のその言葉にブランカー2体は互いに顔を見合わせる。信じられないといった感じだ。
「……お前がゼクルか」
「……あ、あぁ」
「話がある」
え、何怖いんだけど。と思いながらも、目の前に俺の家があるので、先に家を開けて中に入っておくように言ってから記者達の逃げた路地裏へと向かう。案の定こちらの様子を伺っていたらしい。とりあえず適当にごまかしておいて(ここで正直に言ってもブランカーと癒着!とか記事を書かれそうなので)、そのまま家に戻る。入ると玄関のすぐ先で立ったままだったので、リビングのソファに座るように促す。飲み物でも出すか、と思っていたが、「いや、大丈夫だ」と言われた(それも少し急いでるような感じ)ので、仕方なくそのまま向かいに座る。なんか律儀だな。
「……で、話って?」
「王宮のことだ」
緊張が走る。確かに最近忘れかけていたが、王宮の件が片付いていない。正確には、手動していた数名を確保し、アンデルが自白をしたと連絡を受けてはいたのだが、あの日大聖堂の裏で見た黒いローブの男のことがなにも判明していない。まさかこの2人はそれを知っていて、教えてくれるとそういうことなのか?
「知ってるのか。あの事件のこと」
「すべてでは無いかもしれない」
「構わない。君らがいいのなら、教えてほしい」
「……あの事件、人間の男がブランカー側についていた。何かの貴族めいた男だ」
「……名前まではわからないか?」
「……実際に話したことは無い。話しているのを見ただけだ」
「そうか……アンデルだな、そいつ」
アンデルがブランカーと内通していた証拠になる。もっともすでに自白をしているのだが。
「人間は基本的に敵対的だ。だから奴らは珍しくて、印象に残っている」
「まぁ…そうだよな」
と言いながら、ソファに深く腰をかけ……
………
「ん゛っ!?奴ら!?」
「ああ。数人の貴族がいた」
つまり、王宮に務める人間のうち、複数人がブランカー側についているということか。だとするなら、俺はここで雑談している場合では無い。
「ここに来たこと、誰かに知られてるか?」
「同族には一人だけ伝えている」
そこで、ずっと黙っていた方のブランカーが突然顔を上げる。
「まさか、人間の王が危険か!?」
「かもしれない……俺は王宮に向かう」
「俺たちはどうする……むやみに行っては人間を警戒させる」
「そうだな、起きてるかな…レナ?」
『…んぁ………にゃ…』
「駄目そうだな…」
そう、ため息をこぼしたが、俺は2人の顔を見る。異種族でもわかる誰かを心配した顔。
俺は、この顔を何度も見たことがある。この顔を、信じてみたい。
「来てくれ。君たちには迷彩をかける。だから極力は俺に任せてくれればいい」
「わかった」
「急がねばならん。方法は?」
いつもなら、レナを呼び出して転移魔法を使う。が、今はレナがダウン中。なら、三人まとめての移動ならこれが最も早い。
【光歪曲迷彩】
発動させたそのスキルは2人の身体を見えなくする。
「これが…」
「…素晴らしい」
そんな感想をつぶやく2人の姿は俺にももう見えていない。
「ドラゴンを呼ぶ。そいつに乗るぞ」
家を出た俺の目の前に、まるでこちらの思考が読めているかのように一体のドラゴンが着地する。その飛龍は、黒い殻に覆われている。同じく黒を基調とし緑のラインが入った龍用装備を着けているその龍の名前は、トロン。剣を眼前に掲げる男のエンブレムが入った鎧を撫でながら2人が乗り込むのを待つ。俺は腰に電竜刀を差している。電竜刀の特異性【電気の可視化】によって、静電気を見ている。彼らの場所を見失うことは無い。
トロンに乗った俺たちは王宮へと、文字通りまっすぐに飛んだ。強い風が身体に当たるが、後ろに2人の静電気は感じる。吹き飛ばされたりはしていないようだ。それを視て安堵すると、俺はトロンに少し速度を上げるように言った。
その時だった。不意に辺りの魔力が変わった。詳しく言うなら、無属性特有の魔力。別に俺はこの魔力に敏感なわけではないが、それでもわかるぐらいには強い魔力が立ち込めている。が、
その途端に俺たちの近くを別の魔力が包み込む。よく見知ったその魔力は、辺りに漂っていた不吉な寒気を一瞬で振り払う。
『トロンくんごと行くよ!』
その声を聞いて、俺は後ろの2人に捕まっておくように言うと、トロンの横腹を右足で軽く三回叩いてやる。これが合図だ。
『テレポート!』
その叫びと同時に、周囲を光が包み込む。その光が収まると、そこは王宮裏手の小さな広場だった。トロンが静かに着地すると、俺たちは彼の背中から飛び降りて、王宮の中へと走り込んだ。トロンは素早く飛び去ると、南の方角へと向かった。おそらく騎士団の方角だ。何も命令せずにライトを呼びに行くのは流石と言わざるを得ない。
走り込みながら、俺は2人に簡単に説明する。俺が危ないと思っても大きな動きをするな。と。俺がやられたら迷彩が解除されてしまう。だから、その時になってから動け、と。
2人からの返答はしばらく来なかった。が、最後に「わかった」とだけ答えが帰ってきた。俺がピンチになると飛び出しそうだな…と思いながらも、今はそれに突っ込むよりも、王宮内に潜入する。裏口の扉は電子錠だったので、電流を少しだけ流して強制的に解錠する。潜入して、どうしようか、再び転移魔法を使うか、と悩んだ瞬間に俺の頭の中で声が響く。
『三階に敵ブランカー!転移行くよ!』
「了解。いつでも飛ばせ!」
そう言い放つと、途端にまた閃光。光が治まると同時に、俺はいつものように前へと走り出す。四階につながる階段前にブランカーを視認すると同時に向こうもこちらに気付いて立ち止まる。相手は二体。今回は出し惜しみしている場合ではない。そう思った俺は走りながら、右手をまっすぐに伸ばす。と、王宮の窓ガラスを激しく音を立てて割った一本の剣が、俺の右手に収まる。
黒い簡素な一振り。無骨なその刀身は、周囲の光を反射してきらめく。流麗とは言い難い。されど、美しい。その剣が手にすっぽりと入った瞬間に、体の感覚が変わる。簡単に言うと、筋力の強化である。
さらにもう一つの変化。俺の目に、複数の文字列。
―――――――拳銃、薙刀、格闘。
相手の得意武器。三種類、ということは。
即座に判断した俺は、素早く右手の剣を自分の体の前へとかざして、左方向へと飛んだ。銃声と共に刀身に三発ほどの銃弾が当たり、他の弾丸は壁に穴を穿つ。三対一。しかしここで止めなければ上の階には国王カリバーの気配がある。短く息を吐くと、俺はレナに声をかける。
「……レナ」
『はいはい。仕方ないなー』
その声が終わるや否や、俺の横にレナが現れる。黒いフード付きのローブと、灰色のスカートに身を包む無双の魔女が現れる。が、それだけではない。右の通路から、足音。高い金属音の足音は、鎧を着ている証拠。後ろからくるのがおそらく味方だろうと思ったまま、両者が睨み合いながら乱入者の姿を見る。
そこにいたのは、全身を黄金の鎧に包み込んだ騎士。少し離れた場所にあるローグ王国の騎士。八色の騎士の一人。最強を冠する金の騎士がそこにいた。
「大義の為なら、手を貸そう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます