第2章 集う星

 倉庫の中にいた相棒はただ立ったまま相手集団を見つめていた。灰色のロングスカートに灰色のローブを着込んだ少女。右手には流麗な杖を持ち、こちらには一切振り向かない。が、こちらには気づいている。横に並ぶと、視線をそのままに声をかけてきた。


「おそいよ。ゼクル。」

「なんでいるのか知らないんだけど、なんでいるの?」

「え、なんて?」

「何でもない」


 おそらく、言語機能が壊れていたと思うので発言していなかったことにする。

 相棒の名前はレナ・ブランフォード。200年に一人の逸材と呼ばれる天才魔法使いだ。「ムソウの魔女」と言う称号を得ている彼女は基本的には自身の研究室兼図書館から出てこないのだが今回自ら出てきてるのはどういうことなのだろうか。おそらく氷河もこのことには関係していない。理由は単純だ。レナはチャラい男が嫌いだから。

 だが、先の脳死で交わした会話にとてつもない安心感があるのも事実だ。


「最近いろんな奴と組んできたし、いろんなことしてきたけどさ」

「ん?」

「やっぱり、お前じゃないとな」

そう言いながら、左腰から剣を抜く。

「へぇ、嬉しいじゃん。んじゃ、」

そこでレナは大きく伸びをしてから気合を入れ直すように言った。

「いっちょやりますか!」


 俺は剣を抜き、そのままソードスキルの準備をする。今から撃つソードスキルは隙が大きい単発の突き技【アルビレオ】だ。この技は片手剣用の技ではない。細剣用の技ではあるが、この技の特性上、片手剣でも使用できる。しかし、このような乱戦が予想される場合は使わない技だ。威力はとても高く、発動後の突進スピードも申し分ないものの、前述したように発動後の隙が大きいためである。

 だが、今は撃てる。相棒は優秀だ。


「…ほいさっさ」


 気の抜けたような声と同時に魔法が発動し、俺の身体を魔力が包む。次の瞬間、俺は空中にいた。相手の幹部らしき男一人の目の前で、溜めが終わった赤い光の突きを全力でぶつける。この技の威力は生半可な威力ではない。轟音を放ちながらぶつけた剣先によってその男は表情を変えようとした瞬間に吹き飛ばされて地面に倒れた瞬間に動かなくなる。別に死んだわけではない。気を失っているのだ。死なないように調整している。その時、奴の身体から透明の結晶のようなものが出てきて、音を立てて砕けた。あれが属性使いのコアだ。コアは属性の力を制御する器官であり、強い再生力を持つ。それを一時的に破壊し、無力化することをコアブレイクと呼び、属性を伴った攻撃でのみ実行することができる。

 まず一人。男を無力化した俺はすこし下がりながら、レナの前に立つ。しかし、張り付くようにはしない。レナには魔法でサポートしてもらわなければいけない。彼女の射線を遮ることはできない。誘導系の魔法だとしても、対象が見えていないと発動ができない。




 レナは無詠唱で魔法を行使できるが、その他の魔法使いは基本的に詠唱が必要になる。その時点でレナが優秀だということがわかるが、実はそれだけではない。先程レナが発動したテレポートは、高位魔法に属する魔法だ。その魔法を無詠唱で、なおかつ位置調整まで完璧で発動した。無詠唱で魔法の質は変わらないが、魔法にかける時間によって精度は変わる。しかし、レナは飛ばす直前に魔法を発動した。魔法は専門ではないが、魔法の発動には魔法陣の構築が必要らしい。その構築の速さは凄まじく早い。構築しているのが見えないほど、つまり一瞬で終わるのだ。


「よっと」


 またもやレナから気の抜けた声がする。が、彼女が放った魔法は【フレアV】。五つある同種類の炎魔法の最上位である。その魔法を無詠唱とは一体どうなっているのか。そう思いながら剣を構えた俺はフレアの範囲外にいる敵に向かって走り出した。走りながら剣を横まっすぐに構え直す。剣に青い光が明滅すると、俺の身体は急加速して音速に近い速さで敵を切り裂く。その時にふと見てみたが、大剣使いはフレアにも当たらずにこちらを見ていた。ゆっくりと近づいて行くと、納得したような顔で頷く。


「はぁ、アンタが伝説の…ただのガキかと思ってたがやるもんだな」

「いや、俺はただのガキだよ。誰と勘違いしてるんだ」

「…ふざけた戦闘能力だ。だが、な。アンタは俺には勝てねぇ」

 会話があまり続かない。というよりも、会話が成立していない。

 そう思ったのも束の間、男が背中に吊るしていた大剣を抜いて地面に叩きつけた。その剣は、すでに燃えている。

「魔剣か」


 魔剣はその刀身に膨大な魔力と属性力を秘めているため、このように属性が常に漏れているような状態になることが多い。魔剣は強い魔力のせいで通常考えられるものよりも大きい質量を持つ。ちなみに俺の剣は魔剣ではない。

 隣にレナが来てまたもや気の抜けた声で俺にバフを多重にかける。しかも同時に。


「……元スペックが高いからあんまり意味ないけど」

「いいよ、ありがとう」


 俺は剣を肩に担ぐと、軽くジャンプをしながら準備を始める。大剣に対して片手剣が有利に戦う方法は一つだけだ。スピードで振り切ること。その一点のみだ。


「おい、行くぞ…伝説の剣士さんよぉ!」


 妙にハイテンションだが、おそらくこいつは…

 その瞬間に恐ろしい速さで大剣が迫っている。大剣で、しかも魔剣でこの速度で斬撃など本来繰り出せるわけがない。完全にこの動きは違法薬物によって能力を底上げしている状態である。そんな状態だからこそ、奴は笑みをくずさない。

 俺は軽く舌打ちをしながら前に出て、剣を下から当てる。鋭い金属音が響き、腕がきしむ。レナは即座に飛び退いたようだ。なら無理してガードする必要はない。


「……クッソ…!」


 叫びながら剣をスライドしながら俺は身体をひねる。ついに剣同士が完全に離れて、轟音とともに大剣が地面に叩きつけられる。俺は身体をひねりながら剣を遠心力で振り回し、そして相手の背後に来た。


「………らぁっ!」


 短い声とともに振り回していた剣を背中に叩きつけた。相手の剣撃を見切り、そのスピードについていける状態で、背中への迎撃を打ち込む最後の反撃手段。


ーーー【完全反撃パーフェクトパリィ


 剣を叩きつけた背中には防具があったにも関わらず男の身体は吹き飛んだ。しかしこの一発では終わらない。すぐに立ち上がると俺に向かって剣を向けて来る。やはり笑顔だ。薬物を使用して情緒までおかしくなっている。


「いい技使うじゃねぇか。さすがは伝説の剣士さんだな」

「そんな奴知らない。頭までおかしくなってるのか?」

「お前のその顔をボコボコにしてやるよ! 楽しみだなぁ!?」

 そう言いながら剣を構えて走り込んで来る。その軌道は読めない。だがその剣筋は、見たことがある。

「待て…その剣筋はカトラスかッ!」


 紅蓮のカトラス。少し昔に起こった大きな内戦で反政府側の部隊長として名を轟かせた男だ。残虐な行動と、異常な強さが名を轟かせる原因で、自分の得にのみ興味を示す男だ。戦死したと思われていたが、まだ生きていたとは。



 こいつのこの剣筋は、直前まで読めない動きで軌道を描く。パリィをするのは技術的にも、そして大剣の重さを考えた上でも絶望的だ。回避に専念するには軌道がわかるのが遅すぎる。しかし俺は回避を選択するしかない。奴の剣を見据えて、全力でバックダッシュする。俺が反撃を狙うのはたった一瞬。振りかぶったあとのコンマ数秒の隙のみだ。しかも俺が狙える角度に隙が生まれるかはわからない。大剣が四方八方から振られ、ギリギリで回避を続ける。何発か狙えそうな隙はあったが、連撃のタイミングをつかめずに反撃に入れない。

 このままバックダッシュを続けると、いつかは壁に当たる。そうなれば回避も不可能だ。時間がないと自分に言い聞かせて、視線の先に集中する。大振りな構えから即座に剣の位置を変え、横薙ぎを放つ。その瞬間俺は今までのバックダッシュで溜まっていたエネルギーを跳ね返すかのように前に走り出していた。




 右から流れてくる大剣の上に右足を乗せ、そのまま全力で踏み切る。剣を突く、その構えに即座に赤い光が集まり超高火力のパワーを与える。


「はあぁっ!!」


 細剣用重突進技【アルビレオ】は、胴の中心にあたって、そのまままっすぐに貫いた。その勢いによってお互いの身体は飛ばされ、俺は不安定な体勢で着地する。胴は貫いた。かなりの出血をしている。普通の人間なら助からないが、奴は炎属性使いだ。ここからでも助かる。俺の役目は彼らを殺すことではない。俺の役目は、彼らを拘束し捕縛することだ。倒れて動かなくなった身体からコアが出てきて砕けたのを見届けて、レナの方へと駆け寄る。レナはゴーレム2体を召喚しながら上位魔法マジックアローを放っている。マジックアローは術者が任意で属性を追加付与できる魔法だ。普通の魔法使いではないので、数十発ずつでほぼすべての属性があるらしい。


「レナ、あいつの応急回復頼む。ここは任せろ」

「あいよー」


 そしてレナは振り返ると杖を掲げた。動けない程度のみの回復をしなければいけないため、繊細な操作が必要となる。回復に集中する必要があるため今目の前にいる数人の相手は俺がしなくてはいけない。と思っていたが。

 その瞬間に倉庫の扉が弾け飛び、そこから数発の斬撃が飛ぶ。チャクラムのような円状の斬撃は輪廻剣術のものだ。スキルの名前までは覚えていないが、数少ない遠隔攻撃の一つであったと記憶している。つまり天だ。斬撃はきれいに残る4人に命中し、一発分はこっちに飛んでくる。おいおい、と思いながらもメテオドライヴを発動する。青い光を纏った突進攻撃で相殺してから文句の一つを言うために顔を扉の方に向けると天がこちらに走ってきた。今の流れを見ていたらしい天がひとしきりに謝ってくる。先に謝られたらなにも言えない。と、そういえばいつもうるさい氷河が居ない。と思いきや、レナの後ろでちょこまかしている。レナは魔法は終わっているが魔法の構えを崩さない。背中で俺と天に『どうにかしろ』という圧をかけてきているがどうすればいいのかわからない。天も微妙な顔をしているため俺は仕方なく氷河の防具を後ろから掴むとそのまま引きずって倉庫の外に向かった。


「離せこらあああぁァァァァァ!!」


 と叫ぶ氷河と困惑しながらついてくる天。天の向こう側に歩くレナ。

 俺はこうなる予感がしていたので小さくため息をつきながら、帰路を辿った。


 翌日のことである。

 俺の家はアルヴァーン王国南2区にある。俺は一人暮らしだが、かなり大きい家に住んでいる。一人で住むには大きすぎるとは思う。が、国王カリバーにこの家を押し付けられたので、不便もないしここに住んでいる。広い空間に一人でいることにもなれている。朝になると一階に降りてキッチンでインスタントコーヒーを入れて飲むのが日課である。しかしながら今日は状況が違った。


「はーおいし」


 目の前のソファでコーヒーを飲んでくつろいでいるのは昨日チャラ男に絡まれていたレナ氏である。ではなぜ彼女がここにいるのかと言うと。


「……なんでいるの?」


 わからないんだなぁそれが。寝起きの頭でなくともわからなくて当然ではあると思う。と言うか、この異様な光景のせいでいつもの数倍の速さで目が醒めている。


「……なんでいるの?」


 やはりわからなかったらしい。もし、この光景がいつものことだとするならば、納得はできないが理解はできる。しかしこんなことは起きたことなどない。いやあるわ。何回かあるわ。というか過去の事例も全部コイツだわ。いや、だとしてもそんな頻繁な話ではないので理解すらできない。なんのためにこんなことをしているのか。そもそもどういうルートで入ったのか。するとレナは(利き手は右だがマグカップでふさがっているため)左手で立て掛けていた杖を持つと、俺にその先を向ける。


「話があるの。結構重要な話」

「不法侵入の言い訳か?」

 そう言いながら、レナが座る向かいのソファに座る。話している態度では全くまともなことを言いそうにないのだが、なんとなくレナの身振りにいつもと違う部分を見つけた俺はそのまま話を聞くことにした。


「西の貴族連中から変な話聞かされてね。なんでも脅迫文が届いたとかで館の護衛を探してるらしくて。一週間後なんだけどさ」

「まさか俺を推薦するのか? というかしたのか!?」

「まって。そんなことしない。流石の私でもしない」

「自分が異常であることを理解してるんだな。偉いぞ」

「あ? 煽ってんのか?」


 少女が出していい声ではない。そして少女が言っていいセリフではない。大剣を持った大男で言うような声とセリフだった。ともかくそのままレナが続ける。


「まぁ、そうじゃなくて、向こうが言い出したのよ」

「…推薦じゃなくて指名ってことか?」

「一応言っといたけどね。聞かないとわからないって」


 レナの対応は正しい。貴族相手にその場で断るのは属性使いの評判に繋がる可能性がある。とはいえ、直接俺に連絡を取らない貴族は俺の予定を考えていないということなので、その場でレナが快諾をするなどもってのほかだ。しかし、西区の貴族から南区の俺まで話が来るのはどういうことなのだろうか。確かにそこそこの実力を持っているのは認めるが、俺と同等やより活躍をしている属性使いは西区にもいるはずだ。それがどうして俺の元まで話がまわってくるのだろうか。


「あ、あと私からは言いに行かないけどあのカスにも来てるから」

 カス、とは氷河のことである。いつ聞いても可哀想な呼び名だ。あまり思ってないが。

「あのカスに関してはいいんだよ。だってカス、政府の元で働いてるんだから、名前は有名になるし。問題は俺なんだよなぁ」

「ゼクルは、そっか。政府が情報隠してるんだったね」

「そう。だからそこまで有名にはならないはずなんだよなぁ」

 俺に関して言えば、仕事の量も多くはないので受けようと思えば受けられる仕事ではある。だが氷河は違う。あいつは政府直属で仕事をしている。そんな簡単に話が通るはずもない。が。

「その現場によっては、カスでも行くかもしれん」

「あ~」


 もし、通路が狭かったり天井が低い場合、近接武器を振り回すのは困難だ。あいつがそういう場所だと判断すれば自分から名乗り出る可能性はある。あと可愛い女の子がいるか。

「そう言えば脅迫文ってなんの脅迫??」

「宝石が盗まれるとかそんな感じだったと思うよ。ケーキ食べるのに夢中であんまり話聞いてなかっt…いっっっっった!!!!!! もう!」


 話している途中で俺のチョップを食らったレナは大げさに痛がりながら俺を睨む。

「せめてきけや」

 そう言い残して、壁にかけてあるコートを羽織るとそのまま玄関へと向かう。

「あれ、どっか行くの?」

 その声には振り返らずに声だけで答える。


「コーヒー飲みに行く。お前が飲んだやつで無くなったから」

「えごめん。いやちょっと待って!! おごるから待って! 罪悪感がすごいから!! ま゛っ゛て゛!!!!!!」


 忙しい一日になりそうだった。





 いつもの喫茶店に2人で入るとすでに 先客が居た。長身の背中はカリバーのものだ。隣には護衛役の兵士だろうか。ひどく緊張している様子だ。しかし国王の護衛で緊張はあまり考えられない。他の誰かに対して緊張しているのだと思う。しかしそんな奴がいるのか。

 特に何も考えずにカリバーの横に座る。その俺の右にレナが座るのをなんとなしに見てからカリバーの方に視線を送ると、その奥に座る兵士と目があった。軽く会釈ぐらいはしておくべきだろうか、と考えた瞬間に兵士が勢いよく立ち上がり俺に向かって騎士礼をする。


「お会いできて光栄です! 近衛騎士団所属のゲイルと申します!」

「お、おう。…え? 何これは」

「この彼がね、今回の王宮防衛の責任者なの」

「あー、なるほど。明後日だっけ。」

 そうそう、と頷きながら、カリバーはゲイルを元の椅子へと座らせた。

「というか、ゲイルくんは俺のこと知ってるの?」

「もちろんです! 政府内にゼクル殿のことを知らないものなどおりません!」

「それは買いかぶりじゃないかなぁ」

 と答えながらアイスカフェラテのSサイズを注文する。

「んじゃ私はMサイズで」

 とレナが続ける。

「M飲むのか?」

「いや、君が遠慮してるからでしょうが」


 バレていたようだ。運ばれてきたら入れ替えるつもりらしい。彼女には彼女なりに思うところがあるらしい。ともかく2日後に迫った王宮の警備作戦に参加するわけなので、カリバーに話を振る。


「で、今日はなんの話?」

「まぁ、責任者である彼との顔合わせが主の目的だよ。あとはそうだねぇ、一つ報告があってね」

「何?」

「氷河くん、来てくれることになったから。なんか突然行くって言い出してね。こっちとしては助かるんだけど何か企んでるのかな…」

「やめてやれよ……」

 そんな脳死の会話をしていると、アイスカフェラテが2つ運ばれてきた。レナが両方受け取りMサイズを俺の前に置く。

「ありがと」

「いや…私のせいなので……」

 そう言い静かにラテを飲み始めるレナを見て、カリバーがレナを勧誘し始める。

「レナちゃんも来てくれると嬉しいんだけど、どうかな」

「あー…陛下には色々借りはあるんですけど、あのカスがいると考えるとやっぱり…」

 コイツ氷河のこと嫌いすぎるだろ。と内心でツッコミながら話の流れを見守る。その時ゲイルくんがまたしても反応する。

「レナ様? あのムソウの魔女、レナ様ですか!?」

「おう、それ私にも来るんだ……なんかむず痒いなー」

「レナ様、ぜひとも力をお貸しいただきたいのです! 魔法に対する防衛手段が少なく、どうするべきか決めかねておりまして!」


 と言うか、俺には『殿』でレナには『様』なのか。とも思ったが俺が『様』で呼ばれても気持ち悪いなとも思い口には出さない。レナがすごい顔で悩んでいる。なぜか俺の方を睨む。

「ゼクルとコンビなら行きますけど」

「ぜひお願いします!」

「ありがとー! てぇてぇなぁ!」

「はぁー!? キレそうなんだが!?」

 勝手にカップリングするな。というかレナは否定しろ。

 なぜかそのまま話が進んでいき、俺とレナが2人で王宮内を動き回ることになった。なんだこれ見せしめか?

「同種にされたくないから嫌なんだが…」

「ン? いま小声でなんつった?」

「黙れカス」

「おまえが黙れ」


 国王とゲイルくんが帰った後、2人でゆっくりとラテを飲みながら罵倒のぶつけ合いをする。

「と言うかお前、また話聞いてなかったろ」

「バレた?」

 はぁ、と大きくため息をつく。

「ブランカーが相手だぞ。それでも話聞かずに行けるか?」

「すみません聞きます。教えて下さい」


 ブランカーとは、ひととモンスターの中間のような生物。一言で言うなら怪物だ。この怪物ブランカー、知性が高いため戦略を練って今回のように王宮を襲撃してくることもある。そのためこちらとしても動きを入念に練る必要がある。

 また、ブランカーは属性使いの攻撃でコアブレイクされなければ無力化できない。そして、コアブレイクをすると消滅する。しかし彼らの殆どは人間を絶対悪だと思っている。そのような文化のなかで育って行くからだそうだ。過去に一度だけ人間に対して友好的なブランカーに会ったことがある。旅に出ているはずだが、どこで何をしているのだろうか。

 そんなことを頭の片隅で思いながら、レナに当日の動きや作戦の詳細を伝えて行く。その時、鈴の音が反響した。振り返った俺は入り口にいる男を見て少し驚く。が、すぐに俺を探してここに来たのだと理解して手を振る。俺の隣に座った柔らかい表情のこの男は白いアーマーに身を包む。


「よっ。明後日のこと話に来たよ」


 そう、この男こそが、アルヴァーン王国の防衛の要。第十三回剣術大会優勝者、《アルヴァーンの盾》ライト・ブローラスなのだ。

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