#20 八木の制服エプロン



 ウチのかーちゃんを篭絡ろうらくした八木は「お母様、お食事の準備、是非お手伝いさせてください」と言い出し、それで今二人でキッチンに立って、夕食の準備をしている。



 八木はウチのかーちゃんから借りたエプロンを制服の上に身に着け、髪をポニーテールにまとめて、かーちゃんの指示に従って、野菜切ったり食器洗ったりしてる。


 これ、自分の恋人とかだったら胸が熱くなるシーンでしょ?

 未来の結婚生活夢想しちゃったりしてさ


 でも、コレ八木だから、胸熱どころか感情が死んでくっていうか、八木が笑えば笑うほど足元が砂に埋もれていくような、なんていうか、抗えない恐怖心っていうか、逃げ出したくなるっていうか。

 


 だってさ、自宅って完全な自分のテリトリーじゃん?

 唯一気が休まるサンクチュアリじゃん?


 そこに八木が平然と居るんだよ? 歩く都市伝説がさ。

 しかもかーちゃん味方に付けて。


 外堀を埋められるどころか、外堀無視して上空から直接絨毯爆撃されてるような恐怖。



 そんな八木の姿を食卓に座って後ろから茫然と眺めていると

「栗山くん栗山くん、コレわたしが味付けしたの。味見してくれる?」と言って、小鉢に乗せた煮物の人参持ってきた。


 一口食べて、普通に美味しかったから

『うん、美味しいと思うよ』と返すと


「うふふふ、これでいつでもお嫁さんに来れるね♪ うふふふふ」


 やっぱ怖い怖い怖い怖い怖いよ!


 八木はもうお嫁さんになるつもりでいるけど、俺たち付き合ってないからね!

 恋人じゃないからね!

 どっちかというと、ストーカーと被害者だからね!




「ちょっと、アンタそんなところでボケっとしてるなら、カンナちゃんのお布団、客間から自分の部屋に運んでおきなさいよ!」


『え?ちょっと待って? なんで俺の部屋に? 客間で寝ればいいじゃん。 かーちゃんナニ言ってるの?』


「折角お泊りに来てくれたんだから、あんたの部屋で一緒に寝なさいよ。んとにこの子は気が利かないわね~!」


「ふふふ、お母様、栗山くんのそういう純情ピュアなところが素敵なんですよ♪」



 待て待て待て待て待て!

 かーちゃんが八木に洗脳されてる!?



 もうヤダ

 やっぱり八木連れて帰った時点で、俺詰んでた

 八木が本気出した時点で、俺に勝ち目無かった


「今夜は寝かせないぞ♡」じゃねーよ!

 かーちゃんも微笑ましい顔して見守ってんじゃねーよ! 止めろよ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る