#04 「頂きます」が言える八木




 流石に弁当食べたいから寝たフリは出来ないし、廊下ウロウロしてるの気が付かないフリも無理があったので、諦めて声かけた。


『ホントに来たんだね。 良かったら一緒に食べます?』


「はい!」



 八木カンナを連れて席に戻ると、いつも一緒に食べている木村と佐藤は「邪魔しちゃ悪いから、あっちで食べるな」と僕のことを見捨てやがった。



 隣の席が空いていたので『隣空いてるから、どうぞ』と八木カンナに声をかけて自分の席に座ると、八木カンナは隣の席のイスを僕の机の横に持って来て、僕の机に自分の弁当を置いた。



 え?こっちの机で食べるの???

 いきなり近すぎじゃね?


 僕の戸惑いを余所に、八木カンナは「お邪魔します」と言ってイスに座り弁当を広げた。



 誰か助けてくれ、と思い周りを見渡すと、桑原と目が合ったが、親指立ててグーってニヤニヤしてた。



 もう諦めて、手を合わせて『頂きます』と言うと、八木カンナも同じように手を合わせて「頂きます」と言った。



 お?


『八木さん、いつも食事前は頂きます言う人なの?』

 弁当を食べながら僕が聞くと


「はい。毎朝お母さんがお弁当作ってくれてるので、感謝してから食べてるようにしてます」


『へぇ~』


「栗山くんも、頂きますってちゃんと言うんですね。男子だと珍しいですよね」


『まぁ、そうだね』


 そこから黙々と食べ始めた。


 お互い緊張してるのか、会話が続かない。



 すると、沈黙に耐えきれなかったのか、八木カンナが突然


「あの! 私のから揚げと栗山くんの玉子焼き、交換しませんか!」


『え? 別に良いけど・・・レートが釣り合って無くない?』


「じゃぁ!唐揚げ2つあげます!」


『いや、から揚げのがレート高いと思うよ』


「じゃぁ、1対1の交換で・・・」


『ふふふ、了解。 玉子焼き、どうぞ』


「ありがとうございます。 私のから揚げもどうぞ」


『ありがとう。 頂きます』



 なんだかんだでこの子、良い子なのかもしれない。

 少しだけ八木カンナのことを、見直した。



 二人とも食べ終えて「ごちそうさま」と手を合わせても八木カンナは帰ろうとしなくて、でも手持無沙汰だし会話もなかなか続かないので


『喉乾いたから自販機のとこにジュース買いに行かない?』と誘うと


「行きます!」と返事があり、二人で教室を出て自販機まで歩いて行った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る