第43話 鞄を持て!

 翌日ももやもやした気持ちで、授業中を寝たり起きたりで適当に過ごす。

 放課後になって草加くさかが俺の席にやって来た。

理一りいち、今日はお前がどんなに嫌がっても、どうしても付き合ってもらう!」

 げんなりする宣告をした草加が、自分の席に座ったまま動こうとしない俺の腕を持ち上げる。

 こいつ、マジで無理矢理付き合わせる気だな。

 仕方がないから、自分から立ってやることにする。

「よし、行くぞ! 鞄を持て!」

 言われなくてももう持ってる。

「お前、部活は?」

「調子悪いからって休むことにした!」

 調子悪いのに付き合えって何事なんだ。病院についてきてほしいんだろうか。それにしては、元気がありあまっているようにしか見えない。

 廊下に出ると、俺を引っ張っていた草加が調子の悪そうな顔で振り向いた。我慢していたんだろうか。草加がぶっきらぼうな声を出す。

「調子悪いじゃん、お前」

「は……?」

 なに言ってんだ、こいつ。俺の調子が悪いと草加の調子も悪くなるのだろうか。

「オレ、別に嘘はついてないぜ。調子悪いのが誰かなんて一言も言ってねーから。調子悪いのがお前でも、嘘ついたことにはならないよな」

 草加は前を向いて、引き続き俺を引っ張る。俺の調子が悪いと、なんで草加が部活を休むことになるんだろう。それ、サボりじゃないのか。

 草加に腕を掴まれたまま玄関を出て、校門前に行くと、れん春湖はるこがいた。春湖は待ち構えた風に立っていて、俺の自由になる方の腕を掴んで笑う。

「じゃ、行こっか」

 俺は両サイドから腕をつかまれた状態だ。これではまるで連行だ。

「行こっか、じゃないだろ。春湖も部活サボり組か?」

「理一センパイ……人間には部活動よりも優先させなきゃいけないこともあるんだよ」

 春湖の言葉に草加がうんうんと頷く。

 春湖が睨むような上目遣いで俺を見る。

「私だって部活休みたくないけど、理一センパイの方が大事だもん」

 なんの話だ。何故、春湖が部活を休むことと俺が天秤にかかっているんだ。

「とりあえず、歩きにくいから放してくれないか……?」

「ごめんっ」

「あっ、悪い」

 草加と春湖が同時に謝り、同時に手を放す。

 最後尾にいる恋が楽しそうな声を出す。

「二人は、古賀先輩のことを心配しているんです」

「恋ちゃん!」

 草加が慌てたように振り向く。草加と目を合わせた恋は笑みを深くした。草加が顔を赤くする。

「元気のない古賀先輩が心配だから、元気づけたいそうですよ」

「オレはそれほどでもないんだけど? 春湖ちゃんがどーしてもって言うから」

 そう言う草加も、俺のことを心配してくれているらしい。

「私はものすごーく心配してるよ? 理一センパイ、今日は悩みなんて忘れて、みんなで楽しもう!」

 春湖の明るい笑顔が、いつもより無理している。

 草加だけではなく、後輩にまで気を遣わせて、俺、何をしているんだろう。

「……心配かけて悪い。そうだな、息抜きも大切だよな」

 一番近くにいる春湖の頭に手を乗せて撫でる。こんな俺のことで心配をかけて申し訳ない。それ以上に、心配してくれて嬉しい。

 春湖から、無理をしていない穏やかな笑みが返ってきた。

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