第6話 ずっと一緒がいい
「ずっと、一緒にいたいよ……
「春湖……」
静かになりかけた部屋の中で、はっとした春湖が眉を八の字にして微笑む。
「なんか、ごめん。変な空気になっちゃった。とにかく、私は大丈夫だから」
春湖の微笑みが、ひどく疲れたもののように見える。悲しんで、悩んで、諦めた人間の顔に見える。
そうあってはほしくないと思いながらも、二年前の自分と春湖を重ねてしまう。
春湖は同じ学校の後輩というだけで、赤の他人だ。なのに、もう俺は春湖のことを、ただの他人だと割り切ることができない。
どう見ても無理をしている春湖のために、立ち上がった。
「……葬儀の準備もあるだろうし、長居しても
「……それでは、春湖。学校で待っています」
「春湖ちゃん、またね。お邪魔しましたー」
「……うん」
久連木は春湖を気にしながらも、部屋を出て行く。その後を草加が慌てて追いかける。
部屋には、俺と春湖の二人だけになった。
まだ部屋を出て行かない俺に、春湖が不審な目を向ける。
「先輩は帰らないの?」
「まだ話すことがあるからな」
「……こんなこと、先輩には関係ないでしょ……」
恋が部屋からいなくなったからか、春湖は鬱陶しそうな様子を隠そうともせずに、俺から目を逸らす。
「関係ならある。俺も大切な人を亡くしたことがあるから、お前の気持ちがわかる」
「わかるから、なんだっていうの……? じゃあ、梨夏を生き返らせてよ。……出来ないよね」
春湖の瞳が暗く落ちる。
「先輩にわかってもらったって、梨夏と一緒にいられるわけじゃない。私は……梨夏と一緒がいいの……もう、放っておいて」
春湖はベッドにうつ伏せ、俺のことを、この世界のことをシャットアウトしようとしている。
それは駄目だ。
「折倉……そんなに妹と一緒にいたいか?」
「いたいよ。いたいに決まってる」
春湖の苦しそうな声が、くぐもって聞こえる。
恋に本心を気付かれないよう振舞っていた、さっきまでの春湖とは別人のようだ。
こっちが本当の春湖の心だ。無理して平静を装い、苦しさで段々と心が壊れていく。
苦しい。過ぎ去ったはずの苦しみが俺の中で再発する。喉が詰まり、心臓が壊れたように大きく鼓動する。息が上がる。
このままなにもしなければ、春湖は、梨夏の後を追う。俺ならそうしていた。
俺は、今も乃亜と一緒にいられる。その手段を持っている俺なら、春湖の望みを叶えられるかもしれない、と、そう思ってしまう。春湖を見ていて感じる苦しみから逃れたい。そのために春湖の望みを叶えたい。
俺自身のためにも。
「どんな形でも? 一緒にいられれば、お前は幸せか?」
顔を上げた春湖は、生気の感じられない顔で俺を見る。
「どんな形でも……? そうだね……この世のどこにも梨夏がいないなら、天国で一緒にいるのもいいって、思うよ」
「天国じゃなくて、この世界で、言葉を交わせなくても、体温が感じられなくても、それでも、お前は梨夏と一緒にいたいか?」
「……先輩、なにを言ってるの……?」
「俺にならそれが出来る、と言ったら?」
のろのろと身体を起こした春湖が、目を見開いて俺を見る。
「なにが、出来る、って……?」
春湖の目は強い期待を含んでいる。
「梨夏を、今のままの姿で、お前の傍にいさせてやることならできる」
何を言われたのか処理しきれていないのか、春湖からしばらくの無言が返ってくる。春湖はそれでも、しっかりと頷いた。
「先輩、お願いします。私を、梨夏とずっと一緒にいさせてください」
春湖の意思のこもった強い声を受け、俺は、大切な人とずっと一緒にいられる方法を話した。
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