第23話 ガジル、再び

 二番のゼッケンを着けたリヴァイアサンに乗ったガジルとその取り巻き、ガスとゴスが荒れ狂うリヴァイアサンの上でしっかりと地に足を着け並々ならぬバランス力で乗りこなしていた。


『京谷ァァァァァ! 今度こそお前を叩き潰してやる!』


 ガジルは大きな棍棒を軽々と掲げながら叫んだ。


「なに京谷、あんたあれの知り合い?」


「いやぁ知り合いというか……ギャンブル仲間ライバルとでも言っておこうかな」


 なんだかんだガジルと縁がある俺は、嫌いな人間ではなかった。

 気性は荒いが、真っ直ぐでなかなかに面白い奴だ。


「カーヤ、リリア! 遠慮はいらん! 徹底的にやってやるぞ!」


 俺は二人に活を入れると、リリアはガジルを見て目を燃やし、闘争心に燃えていた。

 カーヤはいつも通りと言えばいつも通りだ。なぜならカーヤはガジルとは初対面だからだ。



「よっしゃ! まずは先手必勝未来予知!」


 俺は先手を取ること以上に有利な戦術は無いと思っているため、まずは未来予知を発動した。



――「おらぁ! 乗り込め乗り込めお前ら! 近接戦闘じゃ!」

――「「あいあいさ!」」



 ガジルたちはリヴァイアサンの突撃を緩めることなく、俺たちにぶつかるとそのままなんとこちらに乗り込んでくる未来が見えた。


「まずいカーヤ! あいつらはこっちに乗りこんでくるつもりだ! 近接戦闘じゃ俺たちは分が悪いぞ!」


「わかったわ! とりあえず魔法障壁マジックシールドを展開するわ!」


 カーヤは二頭の間に魔法障壁マジックシールドを展開した。

 キラキラとした厚さ数センチの障壁が出現する。



――キィィィィィン……



「お前らの戦闘方法はさっきから見てるんじゃ! 姑息な戦闘ばっかしよってからに!」


 それをみたガジルはリヴァイアサンの瞼を棍棒で叩き、目を閉じさせた。

 同時にガスとゴスが鼻の中に壺を押し込み、蓋をしてしまった。


「あっはっは何あれ! 見て京谷! 変なの!」


「笑ってる場合か! 突っ込んでくるぞ!」


「え?」


 スピードを緩めることなく、目を閉じ両方の鼻の穴に壺を押し込まれた変な状態のリヴァイアサンが障壁に思いきりぶつかった。



――バリィィィィン!



 障壁を突き破ると、破片はリヴァイアサンの目にも鼻にも入ることなく、パラパラとウロコの上を滑って落ちていった。


「おら、目開けろコラ」


 ガジルは瞼を手で引ん剝くと、そのままこちらに突進してきた。



「あ、あんなのありなの!?」

「さすが、脳みそが筋肉で出来てやがるな。リリア! しっかり捕まってろよ!」


 リリアは頭頂部で四本の手足をべたりと床に付け、吹き飛ばされないようにしがみついた。



――ドシィィィィン!

――ギャアアイィィィィアァァ!



 二頭が激しくぶつかり合い、大きな波を立てながら二頭の絶叫があたりに響き渡った。

 ビリビリと空気を揺らし、衝撃波があたりの物を揺らす。


「来るぞ!」


「おっしゃぁ乗り込めぇ~!」


「「あいあいさ~!」」


 ガジルたち三人はズカズカとこちらの領域へと侵入してくる。


 魔法障壁マジックシールドで未来を変えようとはしたが、未来を変えることはできず俺の見た通りの展開になってしまった。


 ガジルは俺の三倍くらい大きな体をしている。

 まともにやり合えば勝ち目は無さそうだ。


「くそ、カーヤ! 俺の避けれなさそうな攻撃は魔法障壁マジックシールドで防いでくれ!」


「わ、わかったわ! 魔法以外はあんまり耐えられないんだから、頼りにしないでよ!」


 そう、魔法障壁マジックシールドは物理攻撃には弱い。

 ワンテンポ攻撃を遅らせるくらいの効力しかないのだ。


「ガス、ゴス。お前らはあの姉ちゃんやれ」


「い、いいんすか!? うっひょ~!」


 下っ端二人は目の色を変え、カーヤの方へと走っていった。


「こ、来ないでよ! あんた達の目気持ち悪いのよ!」


 魔法障壁マジックシールドを展開しながら、時間を稼ぐカーヤだったが、まともな攻撃手段を持たない彼女の為に俺はガジルから目を離さずに加勢することにした。



「エンチャント付与、炎! 投擲!」


――シュン!


 空を切り真っ直ぐとガスとゴス目掛けて二本の短剣を投げた。

 上手く二人の靴にヒットすると片方の靴が脱げ、二人はバランスを崩して倒れ、リヴァイアサンの背中を転げた。


「お前らしっかりせいや!」


 転げ落ちそうになる二人をガジルは受け止めると、体勢を立て直し三人でこちらに向かってきた。


「やっぱりまずはお前からじゃ~!」

 


――ガイィィン!



 俺は何とかエンチャントした短剣でガジルの棍棒を受け止めることができた。

 火が燃え移りガジルは慌てて棍棒をどかし、床に叩きつけて消火していた。


「リリア! この雑魚二人をどうにかしてくれ!」


「わ、わかりました! 私に良い作戦があるので、あまりアシストは出来ませんよ!」


「作戦か? わかった!」


 獣化リリアがブラストを二人に向かって放つと、風によって足がすくわれた二人はそのまま水の中へと落ちていった。



「「ガ、ガジル兄貴! 後は頼みました~!」」


「お前らほんとに使えないなぁ! 帰ったら覚えとけよ!」


 納得いかなそうに棍棒で背中をゴンゴンと叩きつけると、リヴァイアサンが痛そうに少し暴れまわった。


 

 俺はリリアの作戦が何なのか、未来予知で意識を向けてみることにした。


――……


「なるほどリリア! 最高のアイデアだ! 任せたぞ!」

「え、なになに? あたしどうすればいいの?」


 リリアの作戦を汲み取る俺と、これから何が起こるか理解できていないカーヤは杖を両手で持ってあたふたしていた。


「カーヤ! 俺たちは耐えるぞ! いいな!」


「わ、わかったわ、時間稼げばいいのね!」


 カーヤはなんとなく理解した様子で、魔法障壁マジックシールドをガジルの周りに張り巡らせた。

 三つの魔法障壁マジックシールドが三角錐の形でガジルを取り囲む。



「しゃらくせぇこんなもんで俺っちを止められるかよ!」



――バリィン!



 棍棒で瞬く間に魔法障壁マジックシールドを殴り壊すが、俺はそれを待っていた。


「壊すと思ったぜ! 投擲!」


 俺の投げたエンチャント済み短剣は、壊れたいくつもの魔法障壁マジックシールドの破片に当たり、反射して読めない動きをした。



――シュンシュンシュンシュン!



「お、おぉ!? どっから来るんだ!?」


 軌道を変えながら進む短剣に気を取られているうちに、俺はもう一本普通の短剣をガジルの右の靴目掛けて投げた。



――ザシュ!



 俺の事を全く見ていなかったガジルは、それに気づかずに短剣が刺さった。

 しかし幸運なことに、刺された事にも気づいていない様子だった。



「ガジル! 行くぞぉぉぉぉ!」


 俺はガジルの名を呼び、体当たりするために突進した。


「体当たりかぁ!? 俺っちを吹き飛ばせると思っとるんか、逆に吹き飛ばしてやらあ!」


 俺の作戦通り、ガジルはこちらに突進しようとしてきた。

 すると短剣の刺さった右足は動かず、ガジルは体勢を崩し床に突っ伏してしまった。


「な、なんじゃこりゃ!? いつの間に!?」


「リリアー! 今だー!」

 

 俺がそう呼ぶと、獣化リリアを乗せた一番のゼッケンを着けたリヴァイアサンが大きく唸り、七番のリヴァイアサンともめ始めた。


 そう、リリアの作戦は一番のリヴァイアサンともお喋りをし、二頭ともこちらの手駒にしてしまう作戦だったのだ。 


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