第22話 老夫婦
「さて、奴らは二人。一人は魔導士でもう一人は……う~ん、いまいちわからないな」
今の俺は25秒ほど先が見れるようになっていた。
未来予知は意識して発動するとかなり体力を使う。
だから俺はまだ相手の職業が分かっていない方に意識を向けてみたが、25秒先でも何か行動をしてくる様子はなかった。
「カーヤ! 相手の魔導士を集中して見ておいてくれ! リリア、一番に向けてタックルお願いできるか?」
「わかりました! リヴァイアサンさん、少し痛いかもしれませんが、体当たりできますか?」
(リヴァイアサンさん?)
――ギャオオォォォン!
まるでリリアの問いに答えるかのように大きく唸った。
それと同時に一番に向けて突進するリヴァイアサンはとてつもないスピードで進み、俺たちは手すりにしがみつくので精一杯だった。
「来るわよヴァイ!」
「分かってるベール!
相手のそこそこ歳のいった温厚そうな老夫婦ペアの片方、老父ヴァイが二頭のリヴァイアサンの間に障壁を発動した。
薄く蜘蛛の巣のような見た目をしたそれは、カーヤのそれとは違い柔軟性があるように見えた。
すると俺の脳裏に危険を予知する未来が見えてしまった。
「ウッ……」
――リヴァイアサンがその蜘蛛の巣型障壁に突っ込むと引っかかって身動きが取れなくなり、パニックになったリヴァイアサンがのたうち回り俺たちが振り落とされる未来が見えた。
「リリア! 右に急旋回しろ!」
「右ですか!? わかりました!」
見終わると同時にリリアに叫んだ。
リヴァイアサンはギリギリのところで引っかかることなく、リリアの指示通り右に迂回した。
「あっぶねぇ~……」
「チィッ! なんだいあのネズミ野郎!」
「えぇ……こっわ……」
温厚そうに見えた老夫ヴァイはとても口が悪く、先ほどの仲睦まじい様子とは大違いだった。
「カーヤ! 次また蜘蛛の巣障壁を発動されたら
「「了解!」」
二人が同時に返事すると、こちらのリヴァイアサンは再びもう突進を始めた。
「ふふふ、何度来ても無駄だよ!
「無駄なのはどちらかしら?
再び俺たちの間に蜘蛛の巣障壁が展開されるのを見たカーヤは
するとヴァイの
「な、なんじゃと!? さっきの火球小娘の魔法が消えたのはワシの力じゃなったのか!?」
「自惚れ過ぎなのよおじいちゃん!」
――ドシィィィィン!
二頭の間の障害物が無くなったリヴァイアサンは、気持ちよさそうに一番のリヴァイアサンにぶつかった。
――ギャアアイィィィ!
「おわ! ベール、大丈夫かい!」
「大丈夫さね。あんたもしっかりしなさいな!」
激しく揺れる中しっかりとした足腰で老夫婦は耐える。
その耐え方はまるで老夫婦には見えなかった。
「よっし! 続いて短剣で止めを刺してや……あれ!?」
俺はエンチャントしようと短剣の入ったポーチに手を伸ばしたが、そこにまだあるはずの短剣が無かった。
俺が必死に探している様子を見ると、相手のチームから笑い声が聞こえた。
「あはは、お探しの物はこれかい? 危ないから没収しといたよ」
そう声のする方を見ると、老婆ベールの手の上で俺の短剣をちゃりちゃりと音を立てながら踊っていた。
「な、なんで!? 俺たちは手の届く距離に居なかったはず……」
「あたしは盗賊さね。旦那の心もそれで奪ったのさ」
そう言い俺の方へと手を向けると、俺の腰のポーチが消える。
彼女は盗賊専用の強奪スキルで俺の短剣を奪ったのだ。
「な、なんだと!? これは危機じゃないのか!? 全く見えなかったぞ!」
身の危険は意識しなくても脳裏に映るはず。
そう焦る俺だったが、なぜかベールの言葉に横でショックを受けている老父ヴァイがいた。
「そ、そんな……ベールが私の心を奪った……そんなはずは……」
そのまま硬直したかと思うと、床に倒れズルズルと背中を滑り落ちていく。
そしてそれ以上喋ることは無く、老父ヴァイは水の中へと落ちていった。
「今まで知らなかったのか……可哀そうに……」
俺たち三人がポカーンとした様子でそれを見守っていると、ベールはヴァイを追いかけるような形で短剣とポーチを投げ捨て、背中から飛び降り水の中へと飛び込んでいった。
「ヴ、ヴァイ! 嘘だ! 嘘だよ! 早まらないでおくれ!」
――バシャァァァァァン!
『おおっとどういうことだぁ!? 一番の老夫婦ペアが自ら水の中へと飛び込んでいったぁ! これは棄権なのかそれとも京谷チームの策略かぁ!? 恐ろしい、恐ろしいぞ京谷チームゥ! 老夫婦を騙して水の中へと心中させたぁ!』
「なんて紹介をしやがる! そんなわけあるか!」
(なるほど、こうなる運命だったから危険ではなかったのか)
なぜ危険を知らせる未来が見えなかったのか納得する俺は、投げられた短剣とポーチが空中を舞うのを見つけた。
「リリア! あの短剣の方に移動できるか!」
「わかりました!」
水しぶきを立てながら短剣の方へと向かうリヴァイアサンの上で、俺はなんとかキャッチすることに成功した。
下の方では老夫婦が抱き合いながら救助されているのが見えた。
盗賊スキルで老父の心を奪ったのか奪っていないのかは、俺に知る由もない。
ひと段落を終えた向こうでは残りの二番五番六番が戦闘を行っており、五番と六番が脱落しているのが見えた。
「え、ちょっとちょっと! もう決勝戦じゃないこれ!?」
「そのようだな……気ぃ引き締めていくぞ!」
いつの間にか決勝戦になっていた俺たちは、最後の戦いに向けて乱れた服をなおし、気を引き締めた。
『さぁぁ残すところ二チームとなりましたぁ! 二番ガジルチームVS七番、京谷チーム。勝つのはどっちだぁぁぁぁ!』
「ガ、ガジル!?」
どこかで聞いたことのある名前だ。
そう、酒場で俺がポーカーで負かして次の日に魔道具のギャンブルでも負かしたあの大男だ。
――『京谷ァァァァァァ! 今度は負けねぇぞオラァァァァァァ!』
こちらに向かってくる二番のリヴァイアサンの上から聞いたことのある声がしたかと思うと、そこには酒場でギャンブルを共にした大男が居た。
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