第8話 マネーショットアリーナ

 時刻で言えば十四時くらいだろうか、俺たちはとある闘技場の前にいた。

 この街の中ではそこまで大きくはなく、真ん中で闘技者が戦うエリアがあり、それをぐるっと一周観客席がある。

 この街にはこんな闘技場が複数あるらしい。



――マネーショットアリーナ

 


『ルール』

動き回るモンスターを、配布される銃で打ち、倒せたら賞金獲得。魔法も使用可能だが、とどめは配布されるマネーガンで仕留めなければならない。


 モンスターを倒す前に「硬貨」(所持金)が尽きるか、戦闘不能になると判断したら敗北。


所持金が尽きる前に倒せたら勝ち。入れる硬貨量に応じて弾の威力が変わる。


 『参加条件』

 競技参加者:倒せる見込みの所持金。弾は一発ずつの課金制となる。


 賭博参加者:プレイヤーとモンスターの賭け倍率を見て、どちらが勝つか予想し、賭ける。


 入り口の看板にはデカデカとそう書かれていた。



「面白そうじゃないか。これをやろうぜ」


「なんだか難しそうですねぇ……それにモンスターと戦うなんて怖そうです」


「まぁまずは賭博参加でいいじゃないか。どんなもんか様子をみようじゃないか」


 そう納得させると俺たちは、その闘技場の客席へと赴いた。


 丁度戦闘が始まったらしく、客席に向かう途中で大きなゴングの音が聞こえた。


 闘技場の真ん中では、制服に近い白いスカートタイプの鎧に茶色い肌着とニーソックスを着用した赤髪ボブで、頭にケモミミの生えたナイスバディな女性が闘技場のど真ん中でオークと戦っていた。



『さぁ始まりました! 彼女はオークを1000ぺリス以内に倒せるのでしょうかぁ! 現在のオッズはカーヤ・スカーレット7倍! オーク2倍となっております! ベットする方はお早めにィィィ!』



 アナウンスが戦闘を実況しながら盛り上げている。

 しかしカーヤ・スカーレットとかいう女性はオークに大きなダメージを与えることがなかなかできずに逃げ回っていた。



「ちょっと追ってこないでよ! ……もうっ、汗水たらして稼いだお金を失うわけにはいかないのよ~!」


 オークに文句を垂れながら持っている杖をブンブンと振り回しながら逃げ回っている。このままでは彼女に勝機は無いだろう。俺は未来予知を発動して少し先を見てみた。


「とりあえず俺は残りのお金をオーク側に賭けてくるよ。リリアはここで試合でも観ていてくれ」


 発動して息を切らす俺のことは眼中になく、リリアはどちらが勝つのかとてもワクワクしながら見ている。邪魔するのも悪いと思ったので俺は一人でチケットを買いに走った。



「いやぁぁ! やめてぇぇぇ!」


 チケットを購入し試合を見に戻ると、オークに体を握られ、今にも食べられそうな状態だった。


豊満な胸を揺らしながら、マネーガンをオークの頭に向かって連射しているがとても効いているようには見えない。恐らく最低単価の弾を連射しているのだろうか。


 しかしその様子は観客達にはクリティカルヒットしたようで、揺れる胸を見て歓声が上がっていた。


 その様子をリリアはとてもハラハラした様子で展開を見守っていた。


「こ、このまま食べられちゃうんでしょうか……可哀そうです……」


「ていうか連射しないでしっかりとチャージしたらいいのになぁ。まぁ、そんな余裕ないか」


「くさい! くさい! 息が生暖かいぃぃぃ気持ち悪いぃぃぃ」


 弾が尽きたマネーガンを放り出し、足をバタバタさせながら喰われまいと必死に抵抗していた。



ーーカンカンカンカァン!



 するとゴングが鳴り響き、オークが捕獲された。試合終了のようだ。



『勝者! オークゥゥゥゥゥ!』



(俺の未来予知にハズレは無い……だが意識して発動すると凄く疲れるな、使いどころは見極めないと)


 そう確信を得た俺は、換金所でお金を交換したのであった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 換金を終えロビーでくつろいでいると、闘技場の入り口からヨロヨロと先ほど戦っていた赤髪の女が入ってきた。ケモミミはペタンとしなびていた。


「確か、カーヤっていったっけな、よくあの力で競技に参加したもんだ」


「凄かったです! とても迫力のある試合でした」


「そうか? 俺には出来レースにしか見えなかったが」


京谷きょうやさんにはこの面白さがわからなかったんですか!?」


 少女にギャンブルの面白さを語られるのは、なんだか不思議な気分だった。

 自分の事を言われていると察知したカーヤは俺たちの方に近寄ってきた。



「あんた達さっきから何あたしのこと見て笑ってんのよ! 失礼ってやつよ、無礼ってやつよ!」


 耳をぴょこぴょこと動かしながら、右手に持つ魔法の杖を振り回しながら、俺にそう言った。

 隣の観賞用植物に杖があたり、がちゃんといいながら倒れる。


 すると奥から小金持ちそうな小太りのおじさんがカーヤの方へと近づいて行った。


「こりゃ~! またあんたか! 何回植物を壊したら気が済むんじゃ~!」


「あ、やっばぁ……あたしもうお金ないのに、弁償なんてできない……」


 涙ぐんだ目でそう言うカーヤは、俺の方に手を合わせお金貸してと言わんばかりの顔で懇願してきた。



「まいったなこりゃ……」


 変な奴に絡まれてしまった、と頭を搔きながらリリアの方を見ると急展開についてこれていないのか、目を丸くしてポカンとしていた。

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