第9話 カーヤの要求
目の前でメロンの様な胸を揺らしながら手を合わせ、壊した観賞用植物の弁償代を俺に要求するカーヤ。
俺は面倒なことに巻き込まれたと感じながらも、未来予知の能力をもっと試したかったのでその提案を承諾した。
「う~ん、まぁいいだろう。いくらなんだ?」
「3000ぺリスでございます」
「ささささんぜん!? あたしが日給300ぺリスだから……十日も働かないといけないの!?」
ニヤリと自慢のひげを指でつまみながら笑うオーナーの横で、両手で指を折り数えながらうるさく騒ぐカーヤだった。
(絶対そんなにしないだろ……)
明らかに高い値段の請求に少し驚きはしたが、俺には稼ぐ算段があった。
「
不安そうな声でそう言うリリアの向かいで、カーヤは自分で3000ぺリス稼ぐ大変さを想像し絶句していた。
「任せとけって。オーナー、俺もこのマネーショットアリーナに参加する」
「えぇ!?」
「おやおや、かしこまりました。それではこちらでお手続きを……」
予想外の出来事に驚くリリアだったが、俺の予知能力を使えば難しいことではないだろうと軽く考えながらカウンターに向かい、エントリーシートを書き始めた。
「
「あぁ、あのオークくらいなら俺たちでも勝てると思う。リリア、協力してくれ」
「あんたがそんなに勇敢な人だとは思わなかったよ~! 人は見た目によらないね~!」
心配するリリアと能天気なカーヤの差に対応を迷いながら、俺はエントリーシートを記入し続けた。
(ステータス項目のスキル欄……未来予知ってかいたら不正を疑われそうだから書かないでおくか)
【
【リリア:レベル8 力3 持久力5 魔力30 運気20 スキル 獣化】
発動しているかは見た目ではわからない為、エンチャント付与だけ書いておくことにした。
(ていうかリリアのステータス初めて見たな)
「え、あんたレベル5!? それでどうやって勝つつもりなの!?」
いつの間にか俺の横に来てエントリーシートをのぞき見していたカーヤが批評を飛ばしてくる。
「うるさいなぁ、黙ってみとけ。俺が払ってやるって言ってんだからもう少し大人しくしてたらどうなんだ」
「あ、は~いすいませぇん……」
カーヤは反省しているのかどうかわからない態度で、口笛を吹きながらベンチの方へ歩いて行った。
俺は記入したエントリーシートをオーナーに渡し、順番表の紙を貰ってカーヤとは違うベンチの方へと向かった。
「リリア、俺に作戦がある」
「おお、作戦! 勝機有りということですね!」
そう、俺は無策でこのアリーナに参加しようという訳では無い。勝つための作戦があるのだ。
「あぁ、まずマネーガンは俺が持つ。リリアは確か、獣化している時は多少の魔法が使えるって言ってたよな? それで足止めをしつつ体力を削ってほしい」
「大役というやつですね……! 怖いですが、頑張ってみます」
恐怖の中に楽しさが見える表情をしたリリアは、毛が逆立っていた。
「ちょっと~、何話してるのよ~。あたしも混ぜて~」
わざわざ少し離れたベンチに座ったというのに近づいてくるカーヤに、またか……といった表情で俺は彼女を見つめた。
「とどめは俺が刺す、あとはその場に応じて動いてくれ」
「わ、わかりました!」
カーヤがこちらに来る前に、俺はリリアに作戦を伝えておいた。
俺の順番までまだ少し時間があった俺たちは、ロビーにある掲示板の前に来た。
ここには、参加者の一覧とオッズ表が貼られていた。
「おっ、俺たちの情報ももう出てるじゃないか」
「え~っと私たちのオッズは……オーク側1.2倍で私たちが30倍!?」
リリアが可愛い声を荒げると、他の参加者の中で一番のオッズに周りの人たちも盛り上がりを見せていた。
俺たちのステータスを見て明らかにオークの方が有利と判断されたのだろう。
「これは確実にオークだろう! もうほぼただの人間と獣少女じゃねぇか!」
「俺はオークに今日稼いだぺリス全部賭けるぜ! 5000ぺリスだ!」
「俺もオーク側に賭けるぜ~!」
「俺も俺も!」
ここが儲けどころだと言わんばかりに群衆は皆オークに賭けるためにカウンターに突撃した。
その様子はまるでバーゲンセール会場だ。
「ご、ごせんぺりすって……あ、あたしの今夜の晩御飯代も賭けちゃおうかしら……」
その群衆に交じって、目立つ赤髪が残りのぺリスをチャリチャリを手の中で数えつつ悩んでいた。
「カーヤ、悪いことは言わん。俺たちに賭けておけ」
「は? 30倍よ? 30倍の意味わかってる? 1が30になるのよ?」
(わかった、こいつは頭がお花畑なんだな)
小学生の算数のような発言をするカーヤは誰があんたに賭けるもんですかという態度でオーク側にエントリーしにカウンターへ向かった。
その後俺は自分の番が呼ばれるまで闘技場で少しでもペリスを稼ぐことにした。
『ジャイアントアントVSマッチョブラザーズ! 現在オッズはアント2倍、マッチョ3倍となっております! 賭ける方はお早めに~!』
腰丈くらいのデカい三匹のアリと、これまたでかい赤・緑・青髪の三人組マッチョがバトルをしていた。
「
「マッチョブラザーズだな。あいつらは強いうえに面白いぞ」
実は魔力を少し上げたおかげで、未来を予知できる秒数が少し増えていた。
「いけ~! やったれアリンコ~!」
カーヤも少し賭けていたのか、熱心に応援していた。
試合が始まってすぐ、マッチョブラザーズが先手を取った。
「マッチョ奥義! ピラミッドマッスルメモリー!」
そう叫ぶ先頭の赤髪マッチョが、アントの頭を寝技で固めた。続いて緑と青も同じ技名を叫び、六本ある足をそれぞれ寝技で固め、上から見るとピラミッドのような三角形になり脚を引きちぎっていた。
『勝者! マッチョブラザーーーズ!』
早々に勝負が決まり、ゴングと共にアナウンスが響き渡った。
マッチョブラザーズは観客に向かって様々なポーズを決めていた。
「な、言ったろ?」
「凄くかっこよかったです……」
汗ばんだマッチョを見るリリアの目はキラキラと輝いていた。
あれがかっこいいのかはよくわからないが、リリアが満足したならそれでいいだろう。
「あ、あんたやるわね……」
一方その隣でカーヤは悔しそうにハズレの参加券をくしゃくしゃにして握りしめてこちらを睨みつけていた。
『続いて
そうこう言ってる間に俺たちの順番が来たようだ。
「期待はしてないけど、応援だけはしてあげるわよ~」
「俺に賭けなかったことを後悔しても知らんからな~」
ヒラヒラと手を振るカーヤに反論しつつ、俺たちは闘技場の入口へと向かっていった。
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