第3話 未来予知

 俺が酒場の隅っこで大人しくしていると、前からまたかなりの筋肉質な男が近づいてきた。


「よぉ兄ちゃん。俺っちとギャンブルしてみねぇかぁ?」


 声をかけてきた男はかなりの筋肉質だ。頭に髪は無く、つるつるで茶色いボディがイカしている。

 最初に話しかけてきた大男とそこまで違いがないようにみえるが、この世界にはマッチョが多いのだろうか。


(話し方が同じなんだよ最初のやつと! って見た目も似たようなやつじゃねぇか! 違いがわからんわ!)


「お、おぉ。いいぜ。やってみよう」


 俺はこの世界で初めてギャンブルに挑戦することになった。

 どうやら本当にこの世界はギャンブルが蔓延っているらしい。まるで挨拶をするかのように誘ってきた。


「ようしならギャンブルだぁ! ひゃっはぁ!」


 大男がグラスを持った右手を振り上げながら叫び、あたりに中身の飲み物が少し零れた。



 ▲



 俺はこの大男のテーブルへと席を移動すると、みすぼらしい少女が大男の取り巻きにからかわれているのが見えた。


「や、やめてください!」


 茶色いローブを頭からかぶった少女は、取り巻き二人の嫌がらせを必死に振り払っていた。


「おおい、あんまりいじめてやんなよ~」


「へい! ガジル兄貴!」


 取り巻きの背の小さい小太りの男が大男に向かってガジルと呼んだ。

 この男の名前はガジルというらしい。



 俺たちがテーブルに向かってる間に子分はゴソゴソと袋を漁りだした。

 そこから出てきたのは計八個の小さな魔法陣が円形に並んでいる石板のようなものだった。俺たちはそれを横目で見つつ、席に着いた。



「これが面白いんだぜぇ。ハズレの魔法陣を触ると下から熱湯が噴き出すんだぁ。しかもターン毎にハズレの位置は変化する。ただの運ゲーだ。酒の席じゃあこれくらいのギャンブルが面白れぇんだよなぁ!」


 ピュ~と口笛を吹き、場を盛り上げる男。それに釣られテーブルを囲んでいた男達がドッと沸き立つ。



「ワニワニパニック……?」

「は?」


 俺は思わずそう口ずさんでしまった。

 システム的にはそれに似たものだと思う。

 俺は言った言葉をかき消すように続けて話した。


「面白そうじゃないか。ところでそこの女の子は一体なんなの?」


 俺はどうしても横にいる女の子が気になって仕方が無かった。

 明らかに二人のちょっかいを嫌がっている。


「あぁこいつか? さっき店の外でゴミを漁ってたから拾ってきたんだよ。うちの席に花が来たってもんよ~!」


 そう高笑いをするガジルに、俺は少し虫の居所が悪かった。

 そんなガジルに俺は一つの提案をした。


「なぁ、ギャンブルってのは何かを賭けなきゃ面白くないだろ? もし俺が買ったらそこの少女をこっちに渡してくれよ」


 俺の提案にガジルとその取り巻きは目を丸くする。

 しかし、少し酒が入っているガジルは喜んでそれを受け入れた。


「おもしれぇこというな坊主! じゃあお前はその服賭けろや! うちのゴスに着せてやる」


「え!? こんなちっさいの入んないっすよ!」


 先ほど少女をからかっていた男はゴスというらしい。

 ガジルの呼びかけに小太りの男が反応した。


 確かに俺の服装はこの世界じゃ珍しいものかもしれない。


「あぁいいぜ。その勝負乗った!」


 俺もその条件を飲み、魔法陣パニックを開始することになった。



「ようし順番はじゃんけんだ! いくぞ~、じゃ~んけ~ん……」


 順番は「ガス→ゴス→京谷きょうや→ガジル」となった。





 ――計四人での魔法陣パニックを開始します――


 

 こんな文字が魔法陣の上に浮かび上がった。その瞬間、俺たちの周りに魔法の仕切りが設けられた。これでこのゲームから逃げられなくするシステムらしい。


「ようし、じゃあ俺からだなぁ~」


 少し高めの声のガスという細身の男は何の迷いもなく三時方向の魔法陣に触れた。すると魔法陣は光を失い、灰色になった。これはセーフだろうか、何も起こることなくチン! という音が鳴った。



「ようし、さすがに一発では引かんよな~」


「一発で引いたら俺っちがぶん殴ってやる」


「さすが!」


 取り巻きのゴスとガジルがはやし立てる。


 続いてゴスも六時の方向を選択し、無反応だった。続いて俺の番だ。


「う~ん、どこにしようかな~」


 正直悩んでも仕方がない。これはただの運ゲーだ。

 そう思った俺は五時の咆哮の魔法陣に触れようとしたその時だった。



――ブシャァァァァ!



 魔法陣から熱湯が噴き出し、それを俺が手にかぶり熱さに転げまわる、そんな映像が脳裏に飛び込んできた。急に何事だと思った俺は、驚きながらもこの魔法陣はハズレのような気がして、違う魔法陣へと手を伸ばした。


「チッ……ハズレか。次は俺っちの番だな」


(今の、なんだったんだ?)


 俺は今見た映像が忘れられず、ガジルが魔法陣を選ぶところを全く見ていなかった。




 ガジルもうまく回避し二週目、残り魔法陣が四個となった。


「おい、お前達がハズレを引いたら一晩中引きずり回すからな」


「じょ、冗談よしてくださいよ~……これだ!」


 十一時方向の魔法陣に触れ、チン! という音が響き渡る。続いてゴスも何も起こることなく俺にターンが回ってきた。

 残す魔法陣は二つだ。


(もしかして、未来予知ってこれのことか……? ちょっと意識してみるか!)



 俺は未来予知を発動してみようと、魔法陣に意識を向けてみた。

 


――すると俺がハズレの魔法陣引き、熱湯を手にかぶり転げまわる未来がまた見えた。



(俺ハズレ引き過ぎじゃない!? 運わるっ! ってか未来予知ってめっちゃ便利じゃん!?)


 また俺がハズレを引く様子が脳裏に浮かんだ。

 しかし、発動した後動機がとても激しくなった。


 このスキルは常時発動というわけではないらしい。

 危険が近づくか、意識しないと先は見えないようだ。

 そして意識して発動するとかなりの体力を消耗するということが分かった。


「これだな!」


 そう確信を得た俺は、見えた未来とは違う魔法陣を選択し、事無き事を得た。




「なぁぁぁんでなあぁぁんだよおお!」


 京谷きょうやがセーフになった今、ガジルは強制的に残り一つとなった熱湯付き魔法陣に触れなければならなくなっていた。


「あ、兄貴、仕方がないっす……」


「うるせぇ! わかってらぁ!」


 諦めがついたのか、力強く最後の魔法陣に手を置く。その瞬間魔法陣から大量の熱湯が噴き出し、ガジルを熱湯が包み込んだ。



「アァァァッチィィィィ!」


「「大丈夫ですか兄貴ィィィ!」」



 俺は熱さに転げまわるガジルを放置し、茶色いローブを来た少女の手を引き酒場を後にした。


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