第9話 ひざ枕と告白とお別れ
「…あれ? 僕、どうしたんだっけ?」
目を覚ますと長椅子に横向きに眠っていたみたい。なんだか柔らかい感触がしている。
「あ、目を覚ましましたか? 具合は大丈夫ですか?」
仰向けになったらマーリンの顔が見えた。なんだか近いような。
「えっと、僕は」
「他の人達にお酒を飲まされて倒れたんですよ。飲ませた人達はあそこでお叱りを受けてますけど」
近くで副隊長が仁王立ちで数人に何か言っている。
口調もだけど怒りのオーラが出ている感じだ。
「…だから、まだ16歳なんだからお酒は駄目だと前もって言っておいたのに、何で飲ませるんだ!」
副隊長、怒るとあんなに怖いんだ。僕も気を付けよう。
起き上がってみると、マーリンが避けてくれた。
そこで僕はマーリンのひざ枕で眠っていた事に気づいた。顔から火が出そう!
「す、すみません!」
「…いえ、大丈夫です」
マーリンも意識してしまったのか、少し顔が赤い。
「…少し、話をしていいですか?」
「は、はい!」
話…僕はドキドキしながらうなずいた。
「親が著名な魔法使いの名前を付けたくて、私に〈マーリン〉と名付けたんですけど、私、ずっとこの名前が嫌だったんです」
「…どうしてですか?」
「私、魔力は人一倍あるみたいなんですけど、それを制御するのが苦手で。小さい炎を魔法で出すと大きめになったり、大きい炎を魔法で出すと小さい炎になってしまったりして。よく周りから『魔力は名前通りなのに制御の方は名前負けしている』と言われ続けていたんです」
それは、よほど辛かっただろうなあ。
「その名に恥じない様にと魔法を頑張ってましたが、一向に成長が見られず、とにかく成果を出そうと魔物討伐に参加して…戦死してしまいました」
そこまで言ってマーリンは僕の方を見た。少し涙目になっていた。僕は、
「…大変だったという気持ち、僕、よく分かります!」
と、言いながらポロポロ泣いていた。マーリンはちょっとビックリしている。
「僕も元々羊飼いだったんですけど、幼馴染みが、『羊扱うのもビースト扱うのも一緒じゃないか?』 とかいう理屈で半ば強引に冒険のパーティーに入れられたんです! 駆け出し冒険者で皆レベル低くてスライムばっかり倒してたのにゴブリン相手に戦ったらすぐやられちゃったんです!」
「それは、大変だったんですねえ」
そう言いながら二人で泣いたんだ。
その様子を見ていた副隊長、そばにいた隊員にこう聞いた。
「…あれは、同情の泣きなのか? 酔っぱらって泣いているのか?」
「…どっちでしょうねえ」
「まあ、仲直り、ということでいいか!」
ここ数日、二人の仲を心配していた副隊長。
他の隊員に相談して今回の歓迎会という名の仲直り計画を行ったのだ。
とりあえずこの件はこれで一件落着と思っていた。
次の日、ドラゴンが転生の日を迎えた。僕もマーリンもちょっと緊張していた。
そこへ副隊長がやって来た。ドラゴンにこう話しかける。
「さて、この図体のままでは転生の門をくぐれないんだが、人間形態に変化する事は出来るか?」
ドラゴンは首をかしげると「ウウウ」と唸り、丸くなって空中で一回転した。
途端に煙に包まれたドラゴン。煙が晴れると、そこには赤い髪で瞳が金色の美少女が白いワンピース姿で立っていた。
「そこの小童、早よ儂の手を取り転生の門という所までエスコートせぬか!」
僕は周りをキョロキョロした。そして自分を指差すと、ドラゴンはコクリとうなずいた。
僕は緊張しながらドラゴンの手を取る。ドラゴンとはいえ、女の子の手に触るなんて初めてかもしれない。
「うむ! では案内頼むぞ」
こうして僕は副隊長に転生の門までの道を案内されながらドラゴンをエスコートして行くことになったんだ。
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