第7話 怒っちゃってるけど何かした?!

 お世話も4日経つと段々と慣れて…慣れて…、

「うわー!」

いつものようにドラゴンのブレスの風圧で僕は吹き飛ばされた。

「…またですか」

ジトーっとマーリンに睨まれて頭を掻きながら起き上がる僕。

「あはは、またやられちゃいました」

 そんな僕を見ながらマーリンは、

「…なんでこんな人が才能持っているんだろう」

と、小声で呟いた。声があまりにも小さかったから僕は何を言ったのか聞き取れなかったけど、なんだか怒っているみたいだ。

「僕、何かしましたっけ?」

「別になにも」

つっけんどんに返すマーリン。やっぱり何か怒っているみたいだ。

「でも何か怒っているみたい」

「怒ってません」

「でも」

「しつこい!」

大声で言われて僕はビクッとなってしまった。

マーリンは体を震わせながらこう言い続けた。

「なんであなたみたいな人が才能あって、私には無いの!? それにそういう鈍感な所が嫌なのよ!」

 マーリンは泣いていた。

「僕、そんなつもりじゃ」

「…分かっているなら少し放っておいてよ」

「でも泣いているし」

そう言って触れようとした時、

バチーン!

マーリンが僕の頬に平手打ちをした。

「…あ」

 言い争う声と音で副隊長が部屋に入ってきた。

「…どうしたんだ?」

僕達を見て詳細を聞こうとしたけど、マーリンはずっと涙を流していた。僕はこう答えた。

「たまたま手が当たっただけです」

だけど副隊長は、厳しい表情をしながら二人にこう言った。

「…とりあえずエリックは医務室で手当てしてもらえ。マーリン、ちょっと隊長室へ来てもらおうか」

 他のいきもの係の人に連れられて僕は医務室へ向かった。

「こりゃ派手にやられたねえ。手の跡がしばらく残るかもしれないから湿布で隠しておきなさい。いきもの相手だから匂いがあまりしない方がいいね」

医師に言われて頬に湿布を貼ってもらう。ヒヤッとした感触がちょうど心地よい。

「ねえねえ、一体何かあったの?」

 白衣を着た人達もいきもの係の人もなんだか興味津々で僕に聞いてきた。

「ほんのちょっと行き違いがあっただけですよー」

「ホントにー?」

 その後は根掘り葉掘り色々聞かれる羽目になってしまった。

ある程度は誤魔化したけど真相を気付かれたかもしれない。

女の人はホントに噂話とかが好きなんだなあ、と僕は思った。

 一方、マーリンは副隊長と共に隊長室へ連れてこられた。

向い合わせで椅子に座り、淹れたての紅茶を飲んで落ち着くように促される。

「…さて、一体何があったんだ?」

タオルを渡されて涙を拭いていくマーリン。

「…私の身勝手な妬みです。叩いたのは悪かったと思っています」

「妬み…エリックの才能にか?」

「…はい」

いわゆるコンプレックスというやつだ。

「マーリン、人は誰でも自分と比べたり、自分よりも優れている人を羨んだりするものだ。彼が君より優れている部分もあるが、君が彼より優れている部分もあるんじゃないか?」

「そう…でしょうか?」

「例えばこのファイル。ちゃんと事細かにモンスターの特徴や食べ物の好み、色々書いてある。几帳面なマーリンじゃなきゃ出来ない事だよ。これはすごく参考になるからねえ」

「うん、確かに後々同じ種類のモンスターが来た時に助かるじゃないか」

一緒に話を聞いていた隊長も同意する。

「…ありがとうございます」

話をしたからか少し落ち着いたみたいだ。

「仲直り、出来そう?」

「…まだ、分かりません」

 エリックとマーリンの二人の仲直りは簡単そうで難しいかもしれない。

副隊長はそう考えていた。





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