第4話 お世話役、引き受けます!

 平太とエリックが帰るのを見送った後、副隊長はドラゴンのいる部屋に戻ってきた。

「本当に大丈夫なんですか?」

エルフの女性、マーリンに心配そうに質問される。

「そうだねえ」

少し考えながら、副隊長は精霊召還でサラマンダーを喚びだした。炎属性のこのドラゴンと対話するには同じ属性のサラマンダーを介さないと伝わらなかった。

「…お世話に必要な条件ってなんだと思う?」

「…細やかな気遣い、ですか?」

「ま、それもあるけど、優しさと相手に真摯に向き合うこと、それと相性かな?」

 そう言いながらドラゴンの頬を撫でる副隊長。その眼差しは普段とは違い、優しげだった。

「もしお世話中にドラゴンに食べられたら?」

「…第2部隊総出でドラゴン退治、という展開にはしたくないなあ」

 地獄か天国かの振り分けを閻魔大王の代理で行う審判の門。全部で5部隊ある中で、死後の動物や生き物を転生するまで唯一扱っている第2部隊生きもの係。

荒事専門の第2部隊はモンスターが揉め事を起こした場合も対処しなければならないが、ファンタジー世界の出身者が極端に少なく、さらに退治に関わった経験はほぼゼロなので、ぜひ回避したい所であった。


 平太の家に居候となった僕。

ドラゴンのお世話をするか考える前に眠ってしまった。

朝、布団の暖かさにまどろんでいると、

「朝だぞ、おっきろー!」

 突然大声で起こされてパチッと目が覚めた。

「…オーガ!?」

 ビックリして飛び上がると、

「オーガじゃなくて鬼! 正真正銘地獄生まれの地獄育ちだよ! 早く顔洗ってきな」

 そう言ってオーガ、じゃなくて鬼の平太は僕にタオルを渡してから朝食の準備をする。

僕は言われるまま洗面所で顔を洗ってきた。

 朝御飯を食べて、身支度を整えて昨日の返事をしに向かった。

沢山の人混みにクラクラしたけど平太の案内で無事に着く事が出来た。

 「いきもの係…って読むのかな?」

一人で入ろうとすると後ろから人に呼び止められた。

「そこ、普通には入れないぞ」

 振り向くと長身の男性が三人立っていたんだけど、目付きが怖い…。酒場でこういう感じの人達がいたなあ、とか考えていると、

「おーい、新人が来たから開けてくれ」

男性の一人が壁の出っ張りを押しながら何かに話しかけた。

 「はーい。そこ開けるから気を付けてね」

出っ張りの所から声がしてガチャっと音がした。扉から女性が顔を出す。

「あっ、昨日の! どうぞどうぞ」

男性達にペコリとお礼を言うと、僕は部屋の中へ入った。後ろから「頑張れよー」という声が聞こえた。案外いい人達なのかもしれないなあ。

 モンスターのいる部屋に入ると副隊長とエルフの女性が仕事をしていた。

僕はお世話役を引き受ける事を告げると、

「そうか! これからよろしく!」

 そして、改めていきもの係の皆さんに自己紹介した。

オーガ、じゃなくて鬼もいるし、人間もいる。僕以外女の人ばかりだ! 

エルフの名前もマーリンだとその時教えられた。

「皆さん、よろしくお願いします!」

 皆、笑顔で「よろしくー」と受け入れてくれた。よかった、仲良くできそうだなあ。

 あいさつも済んで、改めてドラゴンに向かい合う。ドラゴンは、金色の瞳でこっちを見つめてきた。

「こ、こんにちは! 今日からお世話をするエリックです」

声をかけながらそばへ近づくと…

パクッ

ドラゴンはいきなり僕を食べた。

「キャ━━━━!!」

悲鳴を上げるマーリンの声が聞こえた。

やっぱりレベルが低い僕には無理だったんだ。

意識が遠のく中、僕はそう思ったんだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る