問題3「寝顔」

 あれから数時間。


 さすがの俺も女の子を背中に背負いながら歩いているので、脚が限界を迎えようとしていた。


 背中ですぅすぅと寝息を立てている柊を擦って起こすと、彼女は嫌そうな目を向ける。


 ただでさえ目つきが悪いのに寝起きって、結構最悪なんだな——と気づいたのも束の間。そんな不貞腐れた顔で睨みつける柊をゆっくりと下ろすと、一言。


「あのさ、何でもう下ろすのよ?」


 さてさて、どう言い返してやろうか。


 散々ばら罵倒した後、結局俺の背中でずっと寝ていた君には分からないと思うがすでにあれから2時間、いや3時間は経っている。まったくと言ってほど失礼極まりない。


「——どうしてかを、その良い頭で考えてみたらどうなんだ?」


「っ——!」


「——って!? な、何するんだよ‼‼」


 ため息交じりに言い捨てると本日何度目かは忘れた一撃が俺の右脛に炸裂する。突如、足を襲った激痛にしゃがみながら悶え、瓦礫のソファーの上に座らせたのを後悔しながら、半目になって言い返す。


「なんかムカついた」


「ムカついたら殴っていいのかよ」


「ええ」


 何を当然のように言いやがって。


 骨が折れたから応急処置してやったのも俺だっていうのに……真面目にあそこで捨てればよかったな。


 とはいえ、どうせ俺の中にある良心が最後まで彼女を見逃すことはないだろうけど。


「はぁ……あぁ、そうかよ。まぁ、いいや」


「は? 何勝手に片づけてるの? 私の話聞いてた?」


「——最初に質問したのは俺なんだが?」


「……私、質問なんかされたかしら?」


「質問を質問で返すな。それにしたわ! 最初にな!」

 

 それはあんたが折れてない方の脚で脛を蹴った理由だしな。


 と言い返してやりたかったが今度はマジのグーパンが飛んできそうで呟くことはなかった。


 まほんとに困ったもんだ。嫌味みたいに真顔で言ってきやがるし……どうやら柊は人を怒らせるのが好きらしい。


「……ん、あぁ、そう。何でもう私を地面に置いた置いてしまったかっていう話ね」


「言い方。俺はそんなこと言ってないんだけど?」


 まぁ、そんな風に俺があたかも悪いみたいな言い方してもこの場所には誰もいないんだけどね。


「——ま、別に何でもいいわ。あぁ―—わはひもねむいし……そろそろ寝ようかしらね」


「柊……」


「ん、何?」


「……いや、なんでもない」


 呆れも通り越して、これはもう何とも言い難いな。正直、突っ込むのも面倒だし、適当にしておくことにしよう。








 20分ほど経つと、隣からは寝息が聞こてきた。


 恐る恐るその寝顔を覗くと、柊は何とも言えない顔をしていた。


 常にむっとしていた頬は柔らかく、気持ちよさそうな笑みを浮かべている。


 近づこうとするとぐすっと寝返りをうち、土埃で汚くなった制服をはだけさせた。


「——はぁ、無駄におっきいもんなぁ」


 たゆんと揺れる胸。


 半壊した家のそれなりに良いベットの上に寝かしたせいか、反動でベット後と揺れて、その振動がいい感じに彼女の胸へと伝わる。


 じっと見ていると、服の向こう側には二つの大きな山にできる谷間。


 そしてさらに奥深くの根元付近にあった星形のホクロがチラッと目に入って思わず首を振った。


「……何やってるんだ。俺」


 ため息交じりに呟き、外の風を浴びに行くことにした。






 何度見てもその光景は変わらなかった。

 大量の瓦礫に、空一面の黒い雲。


 まるで大雨でも振り散らかそうとしてくるような積乱雲さながらではあったが、轟轟と音を立てるわけでもなく空をただ覆い隠しているだけ。


「……いったい…………なんなんだろうな……」


 思わず、息が零れる。


 今日何度目の溜息かは分からなかったが一番深かったのは確かだ。


 朝起きて、寝坊して、学校行ったけど遅刻して職員室に行かされて、終わりだと思ったら後ろで寝ている柊に熱狂的に怒られるし、居残りで掃除させられて――――なんか、世界が滅亡するしさ。


 ついてないどころか、運というものを世界のどこかに落としてしまったかのようだ。


「……まぁ、考えても意味ないんだけど」


 今日の間でどうしてなのかは何度も考えた。


 それに、今日がいつ終わるかも、正直夜がいつ来るのかもよく分からないし……この真っ暗な世界じゃ、せいぜい前を向いて歩くことしか出来ないのだから下ばっかり向いていてもだめだしな。


 そう思って、ふぅと息を吐き、近くにあった壊れかけのベンチに腰を下ろした。


 とりあえずは何をするかだ。


 一応、当初の目的である、俺の家の方面に歩いては見たものの収穫はゼロだった。何もない。景色は変わらないし、家のそばにあった山も枯れ果てた木々が生い茂る森となっていた。


 途中のケーキ屋さんがなかったように、植物以外の人工物はすべて瓦礫になっているし、あまり分からない―—と言うことが今日学んだことだった。


 それに、最悪家族が死んでいたところで俺にとっては何もできないのは変わらない。だからこそ、今は生きる事だけを考えていければいい。


「……それなら、まずはご飯の確保……だな」


 




<あとがき>


 投稿が遅れてしまって本当に申し訳ありません。最近、ふぁなおの体調があまりすぐれないのと眼精疲労が溜まって頭が痛いのが重なっています。ただ、カクコンの順位は大事なので頑張って投稿していくのでゆっくり読んでいってもらえると嬉しいです!!

 






 






 


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