問題1「世界が滅亡した?」


 いつか見た光景だ。


 いや、それじゃちょっと語弊があるか……。

 いつか見たというより、いつか夢で見た、感じた光景の気がする。


 小鳥遊雄二という、俺という、単なる高校一年生がの目に映ったのは言葉には言い表せないほどにぐちゃぐちゃで、悲惨な光景だった。


「……ぁ」


 喉から声が出ない。

 そう思うと同時に強烈な渇きを感じる。


 思わず、水筒を飲もうと手を動かすが辺りには何もない。よく見ると、俺はがれきに挟まっていた。


 その隙間から見える景色を見ていたのか、と気づき、息をゆっくりと吸い込むが——


「っげほっ、がはっ―—はっ、はっ、はっんあがぁっ!?」


 ――無論、空気をまともに吸い込めなかった。

 肺をやれたのか?

 そう思って身体を見つめるが、特に傷はついていなかった。


 思わず、肺に穴でも開いたのかと想像してしまったがそうではないらしい。


 安心して、むせて上がった肩を撫でおろし、ゆっくりと息を吐くと呼吸が徐々に整ってきた。


「ふぅ……ふぅ……」


 数十秒ほど息を吐き、そして吸い込む―—という工程をこなすと身体も徐々に動くようになってきたため俺はゆっくりと這い出ることにした。


「っ……」


 鉄筋コンクリートのガラクタや、ぐちゃぐちゃに折れ曲がった鉄骨。粉々になった机。そのすべての隙間を掻い潜ると、先には今さっき見たはずの光景よりも悲惨なものが広がっていた。


「……なんだよ、これ」


 言葉が詰まる。


 火の海に、瓦礫の大群。人が一人も溶け込めないほどの灼熱の炎と煙が辺りを包み込んでいて、朝まで積もっていた雪がほとんど解けていた。


 後ろに目を向けると、いたはずの2階。いや、高校そのものが無くなっていた。もはや、原形をとどめていない。あんなにも大きかった体育館がもはやコンビニサイズになっていたし、グラウンドは吹き飛んだコンクリートで埋め尽くされていた。


 見回しても瓦礫。人が一人もいない。


「あっ——柊がっ⁉」


 はっとして、自分のいた場所を除くが目が覚めた時に見た通り、誰もいなかった。やばい。あんなにも近くにいたはずなのに。それに、思わず飛び込んで掴んだはずなのに。手元から離れて消えていた。


 やばい。どうしよう。


 焦る気持ちが渦巻く。なんでか分からないけど、あの一瞬で俺は彼女を守ろうと思った。近づく赤黒い煙(?)に怯える姿がどうしても可哀想で飛び込んだがこれじゃあ意味がない。


「っ」


 ぐるぐるの思考でいた場所の周りを歩き回っていると、耳に何かが入る。


「った……」


 明らかに誰かの声だった。

 高く、そして芯のある綺麗な透き通った声。


 そんな聞き覚えのある声が俺の耳に聞こえた。


「柊っ」


「すけて……っぁ」


「だ、大丈夫か⁉」


「た……すけ……って…………」


「ど、どこにいる柊っ」


 音が反響し、どこから聞こえているか把握できない。

 今にも溶けて消えてしまいそうな弱弱しい声に俺の心臓はバクバクとなって、焦りが加速する。


 走り出し、何とか探すが全く見当たらない。


「っぁ……た、かなs……」


「柊!! どこだ⁉」


 呼ぶ声に返すがさらにそれは帰ってこなかった。

 このままでは死んでしまう。


 そんな漠然とした恐怖から焦りがより一層高まって、視界がぐねりと揺らぎ始めていたその時。


 ガタンっ。


 何かが劣る音が後方で聞こえる。


 肩がビクッとなり、すぐさま振り返ると——そこには脚から血を流した柊が這い出る途中で事切れようとしていた。


「お、おいっ―—」


 飛び込むように駆け寄り、彼女の華奢な手を掴む。

 掴むと何かに気づいたかのように一度震わせて、掴み返した。それにまだ、体も温かく、息もある。少し安心したが事態は刻一刻と迫っていた。


「っお、おい。足が」


「う……んっ」


 うっすらと開く瞳。

 眩しそうに手を空に掲げると、苦しそうに彼女は唸った。


 そんな彼女の腕を優しく掴み、俺は来ていた服をちぎって柊の出血箇所に強く押し込んだ。


「っ——いt」


「ごめんっ。でも、止血しないとっ!」


「っふぅ……んぁ……はぁ……はぁ、はぁ」


 苦しそうに唸りながら彼女はゆっくりと呼吸を整えていった。なんとか、意識を取り戻して、落ち着いたのか―—俺の胸にくっついた。


「大丈夫か?」


「っ——」


「え、おいっ」


「すぅ……すぅ……」


 一瞬、死んでしまったのかと思ったのも束の間。

 柊は気持ちよさそうに目を瞑って、寝息を立て始めた。


「え」


 寝てる。

 

 可愛く寝息を立てて、ゆっくりと力を抜かす。


 そんな彼女のほっぺをむにっと摘まんで、俺はゆっくりとその場に座った。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 12月24日 午後17時24分

 世界は滅亡した。80億人の人間が一斉に消し飛び、世界は漆黒の煙に覆われた。雪景色は炎の荒廃した街に変わり、生き残ったのはただ二人。


 これから始まる日常ラブコメはそんな世界で歩む二人の成長話である。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 膝の上で無防備に寝る彼女にたまたま床に敷かれてあった毛布を掛けようと手を伸ばすと、俺の視界にあるものが写った。


 あるものというのはもちろん、男なら誰しも大好きなもの。


 円周率=3.14=π=おっぱい


 この、有名な公式によって導かれる2つの柔らかいマシュマロ。

 人はそれをおっぱいと言うが、俺もそんな大きな2つのπにぐっと目が掴まれた。


 不思議と離れない。掛けなきゃと掴んだ毛布をゆっくりとその場に落とすと、俺の手は彼女の胸に一直線。


「っん」


 触れる寸で。


 残り1㎝のところ。


 遂に俺は童貞を卒業できると思った瞬間、彼女の目がパチリと開いた。


「——」


「——」


沈黙が間にあらわれると——すぐに、それは強烈なお腹の痛みとなって俺に牙を向けた。


「——いいのか?」


「ダメに決まってるでしょ、この変態!!!!」


 ドガンっ‼‼‼‼‼‼‼‼‼


 強烈な痛みと共に、感覚が薄くなっていく。

 視界が徐々に真っ暗になって、俺の意識はぷつんと切れたのだった。






<あとがき>


 カクコン用1作目!! 良ければフォロー、☆評価、感想などなどよろしくお願いします!! ようやく本編スタートですが、楽しんでいただけると幸いです!

 


 

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