ばれちまった後で――5

 「返信がきた。『メリークリスマス、と伝えてください』だって」

 えるながラインのメッセージを読み上げる。

「今勉強中だよってお願いします」

 真澄は次の言葉を伝える。

「了解。でもよかったの、真澄ちゃん? 通話じゃなくて、こんなやり方で」

 えるなが携帯に打ち込みながら、問いかけてくる。

「今あいつの言葉を聞いたら、話し込んじゃいそうですから。お父さんが帰ってこないとも限らないし」

 誕生日の時にも、瀧彦は突然家に帰ってきた。通話しているのを聞かれたりしたら大変だ。

「『俺も勉強している。こんな時期に風邪引いたりするなよ、とお願いします』か。律儀な子なのね。お願いしますなんていらないのに。彼女と直接話しているつもりでメッセージ送ってって伝えたの、忘れたのかな」

 えるなが、直接会ったこともない藍葉をあげつらう。

「でも、いい彼氏を持ったね。真澄ちゃん」

 えるながほほえんでくる。

「私、もっと真澄ちゃんの恋愛を応援したくなってきちゃった」

「恋愛って立派なほどじゃ。まだ一緒に遊んだり勉強したりするだけの仲です。下の名前で呼び合ってもいないし」

「こんな風に男の子に気を遣ってもらってるんだよ。立派にできあがってるじゃないの」

 真澄は、かすかに頬を赤くする。

「次、何て送ればいい?」

 えるなは尋ねてくる。

「紙屋くんもちゃんと厚着しなさいよ。寒い格好でいたら本当に風邪ひくよ、と送ってください」

 あの子は、暑さ寒さに無頓着なところがあるから。

「そんなふうに相手のことを思いやっていたら、友達以上の関係じゃない」

 えるながメッセージを打ち込み、送信すると、言う。

「だからもっと自信を持っていいんだよ」

「そうかな?」

「『ちゃんと厚着しています。暖房も効かせてますから』だって。おっと、画像がきた。はは、何これ? 日本文化好きな子なんだねー」

 えるなは、真澄に携帯の画面を見せてきた。

 青色の半纏姿の藍葉が、こちらに向かってはにかんでいた。スリムな彼も、半纏で丸っこく見える。しかも、彼の頭にはサンタの帽子が載せられている。

 無理やり世間に合わせて、中途半端になっているのがおかしい。

「今時珍しいですよね。しかもクリスマスなのに。でもあいつらしい」

 真澄が笑う。その間にも、藍葉からの次のメッセージが画面に表示された。

「『こっちの方が防寒になるから』か。確かに温かそう」

 いつか自分も半纏を買って、着てみようか。

「真澄ちゃんも半纏、着てみたら案外似合っているかもね。お揃いで半纏って、なんかかわいいかも」

「もう、江波さん! からかってるんですか?」

 まるで頭の中を見透かされたみたいだ。

「『ちょっと寂しいです』だって。だいぶ遠慮がなくなったな」

 えるなが、読み上げを続ける。

「私も、本当は紙屋くんと直接会いたいな。でもこれで十分だよ」

 実際、真澄は、気分が晴れてきた。こんな風に応援してくれる人がいる。だったらもうちょっと、頑張ってみようと思える。

「また返事がきた、ってこれはさすがに読み上げられないな。真澄ちゃん、直接確認してよ」

 えるなが、もう一度携帯の画面を見せてくる。

 そこに表示されているメッセージを読んで、真澄は息を飲んだ。

『受験が無事終わって、合格したら、三滝さんのこと下の名前で呼んでもいい?』

 もうちょっと関係が深まってからと我慢しつつ、いつかはと憧れていた。

「江波さん、携帯貸りてもいいですか」

「いいわよ」

 真澄は、えるなから携帯を受け取る。自分で直接メッセージを伝えたかった。

『当然よ。私も下の名前で呼ぶから、落ちたりしないでよ』

 真澄は、送信ボタンを押す。すぐに既読がついた。

『わかってるよ』

 短い返信からは、自信を感じられた。向こうも、勉強がうまくいっている。

 なら自分だけめそめそして後ろ向きになっている場合ではない。

「ありがとう、隆志、江波さん」

 これで堂々と受験本番を迎えられる。絶対に合格しよう、と真澄は決心するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る