ばれちまった後で――3
「なぜだ?」
「真澄をそこまで束縛するのは、高校受験が終わるまでだろう。終わったら携帯もそのタブレットも返す。そういうことでいいな」
「まあ、そのつもりだ」
「つまりは、高校受験が終わってしまったら、後は真澄の好きにしていいというわけだ。いくらでも紙屋に会っていい。そういうことだ。約束、破るんじゃねーぞ」
「勝手に話を進めるな。私をごまかしてきたお前が何を言う」
「親が子供につく嘘は、どんな嘘よりも最低で最悪だぞ。逆と違って」
「生意気な」
「それに、これ以上真澄のことを拘束しようとしても、嫌われるだけだ。今もそうだが、ひょっとしたら一生、口をきいてもらえなくなるかもな」
実は真澄のことが好きで好きでたまらない瀧彦にとって、最高の脅し文句をぶつけてやった。
瀧彦は、隆志から目をそらす。
「単刀直入に言う。真澄と紙屋の関係を認めろ」
隆志は、正面からぶつかった。
「なぜそれをわざわざ言う?」
「真澄のすること、何でも応援しているんじゃなかったのか。生徒会に入ったのも、広島弥山を目指すと言い出したのも。なら紙屋とのことだって認めてもいいはずだ」
瀧彦は、黙ったままだ。隆志はさらに言う。
「真澄を応援するのは、自分の敷いたレールに乗っていることが条件なのか?」
生徒会の副会長、名門と言われた広島弥山への入学。今後、真澄の進学や就職などを踏まえると、プラスになる。だが一方で、紙屋との付き合いにそんなメリットはない。
瀧彦の言うことには、そんな打算が働いているとしか思えなかった。
「紙屋は、なんだかんだで真澄のことを大事にしてくれているんだ。それが無駄な遊びだとでも言うつもりか?」
「……隆志、お前からもしばらく、携帯を預かることにする」
瀧彦が、静かに告げる。
隆志が、最も恐れていたことだった。
「は? なんでだよ」
「お前の携帯を使って、真澄がさっきの子と連絡を取り合うかもしれない。そうしたら取り上げた意味がない。どっちみち、友達とのやり取りは学校で直接言い合えばいいし、家への連絡は公衆電話からできるだろう」
当然、拒否すればどうなるか目に見えている。
「親父って、ほんとやることがえげつねーよな。残念だよ。俺がガキの頃の親父は、もっと素直だったはずなんだがな」
真澄が藍葉と隔離されて、数日後。
カフェ、フローチェにて。隆志はテーブルを挟んで、えるなと向き合っていた。テーブルの上にあるのは、湯気を上げているホットコーヒー。
「また学校帰りにこんなところに立ち寄って、 どうしたの?」
えるなが言いながら、マフラーを外し、学校指定のコートを脱ぐ。紺色のブレザー姿があらわになった。
「ああ、数日考えたんだけど、やっぱりお前と相談したほうがいいと思って。真澄のことだ。状況が変わった」
先に椅子に腰掛けていた隆志が、話を切り出す。
「何?」
「付き合っていることが、親父にばれた」
えるなは、コートを椅子の背もたれにかけて、腰かけた。
「だから三滝くん、悩んでいるみたいだったのね。それでどうなったの?」
「真澄の携帯とタブレットは取り上げられた。休日も外出させずに家で勉強させると言っている。しかも俺からも携帯を取り上げている」
「だから三滝くん、携帯をいじるところ見せなくなったのね」
「親父は本気だ」
「どうしても、仲を裂きたいわけ、か」
「クリスマスも二人は会って、家でいろいろするつもりでいたみたいだけど、それもだめだ」
家で一人、勉強に明け暮れなければならない。寂しいだろう。
「で、真澄ちゃんは今どうしているの?」
「勉強は、ちゃんとやっているらしい。でも実際はどうなのかわからない。あいつ強がりで、嫌なことがあっても顔に出さないから」
「受験に響きそうね」
「俺もそれを心配しているんだ。親父はこんな束縛をするのは受験が終わるまでと言っているけど、それでもし広島弥山に受からなかったら」
「今後の仲を保つのが、本当に難しくなるね。合格してしまえば問題ないんだけど、でも……」
「でも?」
「こんな中でモチベーション保つの、つらそうね」
「ああ、たぶんあいつ、相当こたえているな。俺には話してくれなかったけど、クリスマス、楽しみにしているみたいだったし。どうすればいいと思う?」
「ていうか、私、ちょっと心配になってきた」
えるなが、そう言ってコーヒーを一気飲みする。そして立ち上がった。
「私、一肌脱ぐわ」
「何?」
「三滝くん、クリスマスは当然予定空いているよね。彼女いないんだから」
「あんたが振ったんでしょうが。まあ、暇だな」
「私、クリスマスに三滝くんの家に行くね。真澄ちゃんのために。当然、準備とかもあるから、あんたにも手伝ってもらうわよ」
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