もみじが紅葉になるように恋めく――2

 「いつまでこんなことを続けるのか、ってこと。私たちみたいにならないって言える?」

地元に残るか一緒に東京に出るか、その二択で互いにすれ違った結果、別れることを選択した。地元と東京、あまりにも離れた距離だ。遠距離恋愛という手もあるが、互いにいろいろと忙しくなって、手軽に会うことはできなくなるだろう。

受験だの進路だのは、まだ早い段階なのはわかっている。だけど、だらだらと長く付き合っていたら迷いが生じて、それぞれの進路に支障が出るかもしれない。だから、二人ともあえて思い切ったのである。

「あの二人も同じになるって、そう言いたいのか」

「まあ、そんなところ。進路のこともそうだけど、互いに付き合ってみたら、どうしても反りが合わないところや、折り合いのつけられないところが出てくる」

「まあ、そうだわな」

「実際に私たちがそうだったし」

 えるなの言っていることは、間違ってはいない。そういうこともあることは、隆志自身もよく知っている。

「だけどなあ、はあ……まったく江波は」

付き合っている頃だったら、わしゃわしゃとえるなの髪を乱暴に撫でまわしてやるところだ。

「何そのため息? 私変なこと言った?」

「変っていうか、江波、お前そこまで後ろ向きだったっけか?」

えるなは達観しすぎだ。現実知っているクールな私をアピールすな。

「どういうこと?」 

「それは俺たちの問題だろ。真澄たちは関係ない。まだ付き合い始めたばっかりじゃないか」

「まだまだこれからなのはわかってるよ」

 えるなが、むすっとする。この顔、隆志にとって嫌いではなかった。余裕をかましてるようでいて、えるなは負けず嫌いだ。出し抜かれたような顔がかわいい。

「今後のことはあいつらが決める。俺は手助けするだけで、ずかずかとああしろこうしろと言うつもりはねーよ。まあ、理想の相手だって言ったのはいきすぎだったけど」

 えるなは、きょとんとしていたが、やがて笑みを浮かべた。

「そうだったね。せいぜいいい感じに持っていくことね。なんなら、デートについていって、荷物持ちでもしてあげたら?」

「俺は召使いかよ」

「男は女に尽くすものよ。それにデートへの同行なんて、もうやったんでしょう。これぐらいはやっても、別に文句はこないはずよ」

「そのせいで真澄から冷めた目で見られるようになったけどね」

「そのまま嫌われれば? そうなればなおのこと、真澄ちゃんの心はその彼氏に向けられるわ。体を張りなさい」

「やめろ、俺は妹に嫌われたくない」

「出たなシスコン」

 ううっ、一本取られた。

「……ていうか、一つ聞いていい?」

「何だよ」

「どうして打ち合わせ場所をフローチェにしたの? 本通のスタバとかドトールじゃなくて」

「男にはこだわりがあるからな」

「こだわりぃ?」

 ――俺はフローチェを愛している。

 この店内に立ち込めるコーヒーの香りと、喫煙コーナーからかすかに漏れ出るたばこの煙のにおい、そして、隆志と真澄を応援してくれる人。何度でも通ってやるぜ、フローチェ。


 その日の夜、隆志は家の自室でツイッターをチェックしていた。

 『リア充オヤジ』で検索する。

『リア充オヤジの息子さん、今日もフローチェに現れた。妹のためにいろいろ悩んでいて、他の人に相談して、立派なお兄さんだ。妹さんは幸せ者だなあ。あと、相談相手の彼女も美人だった。#リア充オヤジ爆発しろ』

 ありがとう。ほんと応援ありがとう、フローチェの見知らぬお客さん。ハッシュタグ相変わらず不穏だけど。あと一緒にいたのは彼女じゃなくて元カノね。

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