浴衣の少年は戦う!――5
これ、まさしくあの時のフローチェでの俺たちじゃないか。しかも、日付と時間も俺たちがいた時間帯と一致する。 リア充オヤジって、あそこで隆志が瀧彦のことを親父親父と言ったからか。
真澄は携帯の画面をスクロールさせて、ツイートを見せる。
『このクソリア充オヤジめ。娘さんかなり美人じゃないか。ムカツク』
『リア充オヤジ! 嫌われて落胆していて、つい同情したけど、あそこまで美人だとシットするなー。同情したぶんの見返りよこせ。コーヒーフロートおごれや』
『あんな娘さんと同じ屋根の下で暮らしているだけでもありがたいと思え。 嫌われているからって落ち込むな、リア充オヤジ!』
『お前も俺と同じくあの娘に汚物扱いされてしまえ、リア充オヤジ!』
『リア充オヤジ爆死しろーー』
『いや、さすがに死んだら娘さんが悲しむでしょ。広電電車で市中引き回しじゃあーー!』
瀧彦をあげつらうツイートの数々に、隆志の体が硬直していく。
「な、なんだこれは」
あのクソ親父め! ちょっとしたトレンドワードになっているじゃないか!
「フローチェでばったり会った後、私大変だったんだよ。インスタグラムとかもチェックして。しかもそのかちゃん、生徒会の友達が、フローチェの客に動画撮られてユーチューブやチックトックに投稿されているかもとか言うし」
だからあの夜、チックトックのことを聞いてきたのか。
俺は改めて携帯の画面を見る。最後のツイートが画面の下に表示された。
『フローチェのお兄さん、頑張ってね。どうか妹の恋を応援してあげてほしい。もちろん、最低の彼氏だったらお父さんの言うとおり別れさせるべきだけど。#リア充オヤジ爆発しろ』
隆志は、決めた。あのフローチェの常連になる! 勉強もちょっとした時間つぶしも、友達と駄弁るのも、すべてあの店で決まりだ。愛しているよフローチェの皆さん。ハッシュタグが不穏だけど。
「まったく、全部筒抜けだったのかよ」
「そうよ。私もいろいろ大変だったんだからね」
真澄が携帯の画面を消して、巾着の中にしまった。
「で、どうするの? 隆志、私たちの味方ってことでいいんだね」
「ああ、信じてくれ」
「私たちのこと、お父さんには黙っていてくれるの?」
「当たり前だろう。うまくごまかしてやる」
――悪いな、親父。
俺に悪役キャラなんて絶対に似合わねー!
「あ、あの……」
取り残されている紙屋が、声をかけてくる。
「これはいったい……?」
「見てのとおりよ」
真澄が紙屋に向き直る。
「さっきお父さんと兄、じゃなかった弟が私たちの付き合いに反対しているって話したけど、状況が変わったわ。弟は応援してくれるって」
そこ弟のまま?
「はあ、では改めて、紙屋藍葉です……だよ? よろしくお願いし……うん?」
藍葉くん、真澄が変なことを言うせいで戸惑っているじゃないか!
「誤解を招くようなことを言うなよ真澄。俺はお前の」
「おねーさん、って隆志のほうから呼んだでしょう。何なの?」
「いや、だからあれは! エアポリスメンを!」
「隆志、パニックになると変なこと言うのは、小さい頃から変わらないのね。おねーさんがなでなでしてあげようか? 子供の頃みたいに」
真澄が微笑んでくる。首をかしげて、簪でまとめられた髪が揺れた。
「だから違う!」
一瞬、それいいかも、って思ってしまった。墓場に入るまでの一生の秘密だ。
「それにどうしたのその服。かき氷? おねーさんが洗ってあげるから、こっち来なさい」
「自分でやるっての!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます