元カノとお悩み相談――4
きつい質問をぶつけられた。これこそが、現状で最も重大な問題だ。
「それが、あんまり。親父に彼氏の存在を知らされたのはつい昨日のことだし。年下なのか年上なのかさえわからない」
「なら、私も手の打ちようがないわね。情報が少なすぎるんだったら、動きようがないわ」
「だよな」
「まずは情報収集から。何か動きはないの? そういえば、近く花火大会があるよね。デートの話とか聞いている?」
花火大会、今度、宮島で開催されるあれのことだろう。厳島神社のすぐ沖合で五千発もの花火が打ち上げられる。名物は、海面で半球状に花開く水中花火だ。
「あの花火大会なら、妹は生徒会のメンバーと一緒に行くって言っているけど」
「ひょっとしたら、友達と一緒に行くふりをして、実際は彼氏と一緒に行くつもりかもしれないわ」
「そういえばあいつ、しきりに浴衣のことを気にしていた」
昨日の晩、花火大会に着ていく浴衣の話をする時の真澄は、やけに熱心だった。当日一緒に行動するのは気心の知れた友達なのに、浴衣のことで失敗したくないという切実さすらあった。まるで大事な人と会うように。
「真澄ちゃんの彼氏が登場する確率、大ね? なら、尾行よ」
「尾行?」
「こっそり後をつけて、情報を集めるの。真澄ちゃんの彼氏とやらがどんな男なのか、ね。まずはそこから。どのみち三滝くんの話によると、真澄ちゃんは彼氏について自分から話そうとしないでしょうし」
「ああ、でも……」
隆志は、瀧彦の仕打ちを思い出す。娘の携帯をのぞき見るという、卑劣な行動をとった。親父のほうが、立派な束縛彼氏だ。
あれよりももっとひどいことをすると思うと、良心が咎める。そもそも、妹をストーキングするなんて、どれだけシスコンなんだ。
「嫌だったら、私がやろうか? どうせその日は暇だし、ちょうど花火を見たいと思っていたし。妹のことは任せてちょうだい」
今ので、割り切った。細かいところなど構っていられるか。
「いや、俺が行く」
自分と妹のことだ。えるなには相談には乗ってもらってありがたいけど、部外者に関わらせるわけにはいかない。
「もしばれたら、真澄ちゃんの三滝くんへの好感度が下がるわよ。最悪口をきいてすらもらないかもしれない。それでも?」
えるなが念を押して、隆志の覚悟を試してくる。
「もしろくでもない彼氏が相手だったら、無理やりでも引き離してやるさ。ダメ男に真澄が不幸にされるくらいなら、悪役なんざいくらでも引き受けてやらあ」
えるなは微笑んだ。
「せいぜいばれないように頑張ることね。そしてきっちり、真澄ちゃんにとって噂の男は理想の相手か見極めなさい。結果がわかったら、また相談に乗るわ。それと三滝くん、最後にひとついい?」
「ああ? 何だよ」
「ちょっと熱くなってない?」
「そうか?」
「妹さんのために熱心になるのはいいことだけど、あくまで冷静にね。修羅場にだけは持ち込まないこと。真澄ちゃんも大事な時期ってことを忘れないように」
万が一、余計なトラブルにまで発展した場合は、真澄の受験にも大きく影響してくるのだ。
「ああ、忠告、ありがとう」
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