元カノとお悩み相談――3
昼休憩、弁当を食べ終えた隆志は、他の女子生徒と机を合わせて談笑しているえるなを残して教室を出た。恋人同士でなくなった今、移動は別々が基本だ。周囲の生徒に変な勘違いをされたくもない。
ということで、先に自習室に到着する。もちろん、思ったとおり無人だった。照明と冷房のスイッチを入れながら、隆志はほっと一息つく。
本棚にぎっちりと詰められた参考書や赤本に囲まれながら、隆志は自習机の一角に腰掛けて、相談相手の到着を待つ。
そして五分ほど経過。冷房が効いて部屋が涼しくなったとき、自習室のドアが開いた。
「三滝くん、入るよ」
えるなが入室してくる。
「すまないな、せっかくの昼休憩に」
「いいよ。で、さっそくだけど相談って何? 元カノでもOKならよろこんでお引き受けするわ」
「ちょっと、恋の相談、かな」
このセリフ、吐くのマジでつらい。だって相手は元カノ。
だがえるなは、顔色一つ変えなかった。隆志とは、もうそっちの関係ではなくなっていると割り切っているからだ。
「いいわよ、話して」
「それが……」
緊張で、うまく口が開かない。隆志自身ですら、これは突然すぎて心の整理ができていないのだ。
「どうしたの? 急にしゃべらなくなって。緊張しなくていいんだからね」
えるなの声が、優しくなる。
「すまない。俺だって困っていて」
「ここには誰もいないし、口外するつもりなんてないから。秘密は厳守する」
「ああ、ありがとう。それが、か……」
隆志は、声を詰まらせてしまった。頬が熱くなってきた。
「か?」
対するえるなは、余裕の表情だ。首を傾げ、隆志の言葉を待ち受けている。
「か……」
くそっ、言えない。さっさと言わないと。何のためにえるなをここに誘い出したのか。
「か、ってひょっとして? まさか」
えるなは、にこっと笑う。
――ええい割り切れ。
「よかったね、三滝くん、私の次の、新しいお相手が……」
えるなの言葉など、耳に入らなくなった。隆志は、思い切る。
「彼氏ができた!」
「そう、彼氏。おめでと……って、はあぁ!」
「だから、彼氏ができてしまったんだよ。俺どうしたらいいかわからないんだ!」
いったん白状してしまえば、口から言葉が次々と出てくる。
肝心なところが抜けていて、相手に勘違いをさせているが。
「お、おお、男なの? 相手は」
さっきまで余裕の態度だったえるな、今は目を見開いて頬を赤くしている。
「ああ、そうだよ。だから相談なんだよ。いろいろ聞かせてくれ」
「ま、まあ仕方がないわよね。恋の形なんていろいろあるし。私がどうこう言えた義理じゃないわ。慣れないことも多いかもだけど、協力する」
「ああ、ありがとう」
やっと、隆志は落ち着きを取り戻した。ほてった頬が冷めてくる。
えるなはこめかみに指を当てて考えながら、アドバイスをくれる。
「ええっと、まず男に好かれ続ける秘訣からよね。女の側の戦略を教えてあげないと。とりあえず、男が惚れる私服のチョイスからかしら。三滝くん、男子の中では割と背が低いほうだからね。半ズボンとか、あえて子供っぽい服を選択してかわいらしさを強調して、相手の男の保護欲を誘い出して……」
――……はい?
今度は、隆志のほうがきょとんとする番になった。この女、何を言っているんだ?
「どういうことだ?」
「え? 三滝くん、そっちの方向で恋愛するんじゃないの? 三滝くんの彼氏がどんな人かはおいおい聞くけど」
「俺じゃない真澄だ! 妹に彼氏ができたんだよ!」
――俺に子供っぽい服を着ろとか、何を想像したんだこの女は!
「あ、妹さんのほうね。はーびっくりした」
えるなはほっと一息つく。
「変な勘違いするなよ」
「あんたの日本語がおかしいからよ。ちゃんと誰の彼氏か言ってよね。それにしても、あの真澄ちゃんに彼氏か。意外だな。前に会った時の印象だと、真面目で恋愛なんて興味なさそうだったのに」
一年の頃の三学期、まだ付き合っていた時に、隆志はえるなを自宅に招いたことがある。真澄は礼儀正しく挨拶して、えるなを感心させたものだ。
「でも、今の時期なら、問題あるわね。三滝くんが悩むのも無理はないわ」
「受験が控えているからな。ただでさえいろいろ大変なこの時期に恋愛なんて、デメリットは多いし、それにもっとやばいのが、親父だ」
「反対しているの?」
「ああ、俺に真澄とその彼氏を別れさせろとまで言ってきた」
「受験期の恋愛に、親の反対ね。確かに、大変だわ。へたをしたら受験も恋愛も失敗して、家族の関係も冷え込んでしまうから」
「どうすべきだと思う? 江波」
「それ以前に、三滝くんは真澄ちゃんの相手のこと、どれだけ知っているの?」
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