帰郷
その日の午後、彼は運転席に乗り込むと、キーを回してエンジンを始動させていた。
彼はその時に至ってもなお心の中で躊躇する気持ちを捨てきれずにいたが、小刻みな振動を体で感じているうちにその抵抗が薄れていくのを感じ、ようやく決意を固めた。
「そうだな……」
彼はリクライニングシートに身を任せ、徐々にスピードが上がっていく慣性を体で感じていた。
「故郷か……」
彼はそうつぶやいて、窓ガラス越しのはるか前方の景色を見据えた。
その瞳には飛び立った時と同じ姿をした『青い惑星』が映っており、その目元にはその惑星と同じように水が浮かんでいた。
ー了ー
故郷の味 戸画美角 @togabikaku
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